vol.214 熱中人 都竹 政貴さん

一人縫製の現場から見えるコト、見えないモノ

メルチデザイン 都竹 政貴さん

 

バクまくら
tomoniプロジェクトで「僕ら専門家(陶、ガーデン、服などの表現者)と障がいのある表現者の作品を掛け合わせて何ができるか」そんな取り組みに参加させてもらった時に、伊藤淳司さんとつながりました。(P-15ボーダーレス社会を目指して イラスト作者)淳司さんと雑談をしながら、彼が描いた絵をたくさん見せてもらいました。「どれが一番好きなの?」と聞いた時に、バクのイラストを出してきてくれたんです。「じゃぁ、これで何を作ろう」と話し合いました。
バクは夢を食べるよね。「そうだ、怖い夢を食べてもらえる枕にしよう」ってことで、バクまくらを作ることに。安眠する枕だから、枕の中身のそば殻は近所の蕎麦屋さんからもらって、薪で炊いて煮沸消毒。そのあと天日干し。「いい夢を見てもらう」というのがコンセプトのちょっとこだわったバクまくらを作った。淳司さんの書いたバクの絵も素敵だし、寝室にバクがいるっていうだけで、安心感を得られるんじゃないかな。

最高の生地に出会って
tomoniつながる和綿プロジェクト※でいろんな人とつながっていく中で、特にリトアニアでリネンを育てている、カミンスカスさんが面白くとても印象に残っています。リトアニア(エストニアやラトビアと共に、1940年以降ソ連に併合されていた。1990年に独立回復宣言)がもと旧ソ連に併合されていた頃、国中がリネン畑だらけだったんだって。彼が子どもの頃は「青い花が咲く頃には青空が下に落っこちたんじゃないかっていうくらいの景色があったんだ」って。ソ連が崩壊して、リネン産業が衰退。青い色が消えてしまったことを憂えていた彼は、昔ながらのやり方でリネンを育てようと一念発起。そんなカミンスカスさんが原料を送ってくれた。それが生地になった。ものすごく肌さわりがよくて、ワンピースドレスを作りました。自分の中では、この生地は寝具とかパジャマがいいんじゃないかという思いがあり、和綿プロジェクトでできた生地で、もう一回バクまくらを作ったんです。今度は、墨でシルクスクリーン印刷。完全に乾ききっていなかったのか、一回洗いをかけたら、墨が溶けて、墨染めになっちゃった。全体を見るとそれはそれで悪くはないんだけど、今の段階では洗濯機では洗えない。商品化にはまだまだ課題が残りました。
アートと福祉
伊藤さん(淳司さんのお母さん)にはできればこれを「売れるようにしたい」と話しています。これでお互いに収益が上がれば、と。福祉とアートをつなぐ、まさにコラボレーションです。ただ何をもって福祉というのか、自分はあまりよくわかってないんです。障がいのある人の創造性を支えるというか、実はお互い様なんですけどね。でも、専門家とコラボすることで、色々な接点が生まれて来るんじゃないかと感じてはいます。
自分はかつてべルギーのアントワープ王立アカデミーという、ヨーロッパでも歴史ある美術大学のオープンスクールで学んだのですが、そこで感じたのは、モード科、テキスタイル科のレベルがすごく高いということでした。そこで出会って仲良くなった日本人とある時、「目を隠して過ごしてみよう。 時間でやめる」と決めてスタート。目から入る情報が何もない状態で、コーヒーを飲みたくても、どれくらいが一杯なのかわからなくて…。夜になると、外も部屋も真っ暗。急に暗闇の怖さが襲ってきました。でも、そういう疑似体験を重ねることで、立場の違いを理解できるようになればいいなと思いますね。そこにどうアートを絡めていくか…。

アートの役割
体力には自信があったけど、9年前に潰瘍性大腸炎を患って、一ヶ月半の入院生活。あっという間に筋力が衰えました。退院しても足腰が痛いし、仕事はできないし…。そんな時に、近所の第2いぶきさんが、非常勤で来ないかと声をかけてくれたんです。そこで最初に「百々染め(草木染め)」を仲間たちと取り組みました。第2いぶきは結構重度の方が多くいろいろ学ばせてもらいました。ただ、自分自身の体が弱っていたのもあって、職員より仲間たちと一緒に話をすることが楽しいし、気持ちもよかった。もちろん難しいこともありますけど。
障がい者って、一括りにはできないですが、昔は大変だったと思うんですよ。差別とか偏見で隠されちゃったりとかして。やっと今になって、障害者差別禁止法ができて、是正されつつあるように思いますが、まだまだ昔を引きずっている感じは否めないですね。そんなこともあって、「アートの役割の一つには福祉とつながりあうこと、そして、ともに支えあっていけること」なんだと思っています。

tomoniつながる和綿プロジェクトとは 日本の風土と日本人の肌に一番なじむ繊維である「和綿」を通じて、 人と人、人とモノ、モノとコトがつながる物語を紡ぎ、 アート、デザイン、ビジネス、福祉の分野をつなぎ、新たな出会いと仕事が生まれる場をつくりたい――そんな願いを込めたプロジェクト

 

つづくまさき●メルチデザイン デザイナー・服飾作家・コラボレーション作家。
1971年生まれ。岐阜県立岐南工業デザイン科卒。デザインから縫製まですべて一人で行う。地元縫製工場にて技術を身につけた後、独自のパターンメイキングで制作。
1996年 個展「大量生産できない服」 MELCHI DESIGNSを始める
服の原料(種から)づくりを実施。