vol.208 夢か悪夢かリニアが通る!vol.37

JR東海名誉会長の葛西敬之氏が5月25日、死去しました。81歳でした。葛西氏は「国鉄改革3人組」として知られ、リニア中央新幹線建設にまい進してきました。政府がリニアへの3兆円もの財政投融資を決めたときには、「森友・加計問題」と同様、葛西氏が当時の安倍晋三首相の「お友達」であることが背景にあると指摘されたものです。読売新聞は5月28日付「評伝」で「『日本経済のためになる』と信じたリニアの開業を見届けられず、さぞ無念だったろう」と書きましたが、大井川など沿線各地で難題が噴出し、2027年開業が絶望的になった今、「リニアの行く末を見届ける責任があった」と亡き葛西氏に伝えたいと思います。   ジャーナリスト・井澤 宏明

 

有害残土、受け入れか否か

環境省の「重要湿地」

「あんな出たらめを置くわけにはいかん」と町長が批判した本を町図書館が倉庫にしまい込んでいた岐阜県御嵩町で5月28日、リニア建設工事から出る残土処分場について話し合う1回目の「フォーラム」が開かれました。
連載33回(2021.11&12号)でも触れましたが、JR東海は町内の掘削口から掘り進む2本のトンネルから発生する残土計約90万立方メートルのうち、カドミウムやヒ素などの重金属が基準値以上の「有害残土」を含んだ約50万立方メートルを町有地約7ヘクタールに、残り約40万立方メートルを民有地など約6ヘクタールに埋める計画です。いずれも掘削口に近い山の中です。
今回のフォーラムは、町有地への有害残土受け入れを拒否する意向を示していた渡邊公夫町長が昨年の9月議会で一転、「受け入れを前提として協議に入りたい」と表明したことがきっかけで企画されました。町長は容認に至った理由の一つに「専門家の話を聞き、一定の理解、納得ができた」ことを挙げました。これに対し、専門家の話を聞きたいという声が町民から上がっていました。それに応える形で、専門家を交え、公開の場でJR東海と町民が協議するリニア沿線では初めてのフォーラムの場が設けられました。約550万円の予算で来年1月末までに6回行う予定です。
ところが、当初公表された5人の専門家の中には、地盤工学や地下水学、ウラン鉱床などの専門家はいるものの、植物の専門家はいませんでした。残土処分場が計画されている山林には、「氷河時代の生き残り」と呼ばれるハナノキなどの希少植物が生息し、環境省の「重要湿地」にも選定されている「美佐野ハナノキ湿地群」があります。町は開催直前になって、森林生態学の専門家を6人目に加えました。

メリットは引き取り料?

町民約60人が出席したフォーラムは最初からつまずきました。説明したJR東海の担当者が有害残土について「最終処分を決めたものを『対策土』、まだ決まっていないものを『要対策土』。御嵩町は最終処分するので『対策土』と(呼ぶと)決めた」と説明したことに対し、「対策が済んだ土だと勘違いしてしまう。町民を少しでも安心させようという魂胆が見え見えだ」と反発の声が上がったからです。担当者は「それでは御嵩町については『要対策土』にします」と前言を撤回しました。
せっかく出席した専門家でしたが、ファシリテーター(進行)役を除いてほとんど出番がありませんでした。なぜなら、町長が一転して受け入れを前提として協議すると表明したことに、町民の抗議が集中したからです。
フォーラム後、町長を直撃しました。ジャーナリストの樫田秀樹さんが「町のメリットがないという話があったが、残土を受け入れるときには、残土引き取り料が入ります。仮に1立方メートル4000円とすれば36億円入ってくる」と迫りました。これに対し町長は苦笑しながら、「それはメリットとは思えないですね。私、1回もお金の話はしてないですよ」。
続いて私も尋ねました。「さきほど『アリバイ作りではない』とおっしゃったが、フォーラムを重ねた結果、町が受け入れを拒否することはありえますか」。町長は「受け入れを前提にして話し合っていく中で、『ノー』というものが出れば、それはダメでしょって話でしょ」。私「じゃあノーがありうるということですか」、町長「ありうると思いますよ」。
本当にアリバイ作りではないのか、フォーラムの行方に注目です。