vol.205 しょうがいをみつめる vol.16

同じ世界に生きていて

『自閉症の僕が跳びはねる理由』という本をご存知でしょうか。東田直樹という自閉症の作家が13歳の頃に執筆し、現在では世界30カ国以上で翻訳、映画化もされています。
この本では、「なぜパニックを起こすのか」など、自閉症者に向けられるよくある疑問を作家自身が解説するという内容で、話すことが困難な故に誤解されがちな自閉症の世界を鮮やかに描きだしました。
私自身、障がいのある子どもたちとは長く関わっているし、自閉症のこともよく知っているつもりでしたが、この本を読んで、こんなにも若くして自分のことを分析し、言葉にできる自閉症者がいるということに驚いたとともに、こう感じていたのか、こういうことだったのかと気付かされることがたくさんありました。

そして、ある子のことを思い出しました。
学校では、朝登校するとカバンの中のものを取り出して指定の場所に置き、カバンをロッカーに片付けるのですが、自閉症の彼は登校後、朝の会が始まるまでかかってそれを行います。その間実に20分。普通なら1分もかからずに終わることです。何をしなきゃいけないかが分かってないわけではなく、単純に時間がかかるだけ。
その当時は、早く終われば残りの時間遊べるのにどうしてだろう、何とかして早く終わらせられるようにしてあげたいとあれこれ手を尽くしてもみましたが、急かすたびに彼は怒り、私は途方に暮れてしまいました。

 東田さんの本にこういった一節があります。
『みんなはすごいスピードで話します。頭で考えて、言葉が口から出るまでが、ほんの一瞬です。それが、僕たちにはとても不思議なのです。』
普段私たちが何気なくやっていることが、自閉症の人にとったらとてつもない時間と労力が要ることなのかもしれません。そうならば、私たちのペースに彼らを無理矢理合わさせようとするのは、果たして彼らのためなのか。時間があるのなら、それが許す限り、彼らのペースでやっていくのを見守ってもいいのではないか。今になってみると、このようにも思うのです。

私たちは今生きている世界が唯一のもので、かつ正しいと思っていて、自閉症の人たちのように、同じ世界に生きていても、物事の見方や感じ方が異なる人がいるということを忘れがちです。そういった時、この本のように当事者の言葉が多くのことに気付かせてくれます。
映画「自閉症の僕が飛びはねる理由」には、シオラレオネというアフリカの国に住む自閉症の家族が出てきます。この国ではいまだに、人前でパニックになる自閉症の人たちは、悪魔や魔女と呼ばれ、偏見の目に晒されています。

『この本を読んでくだされば、今よりきっと自閉症の人のことを、あなたの身近な友達のひとりだと思っていただけると思います。
人は見かけだけでは分かりません。中身を知れば、その人ともっと仲良くなれると思います。
自閉の世界は、みんなから見れば謎だらけです。少しだけ、僕の言葉に耳を傾けてくださいませんか。そして、僕たちの世界を旅してください。』
自分とは違う立場の人の声に多くの人が耳を傾けることができれば、差別偏見はもっと減っていくのかなと思いました。           S.I

引用:『自閉症の僕が跳びはねる理由』東田直樹





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