産廃本を「禁書」扱い
リニア中央新幹線のトンネル掘削により発生するカドミウムやヒ素などの有害な重金属が混ざった「汚染土」を含む残土処分場について「受け入れを前提として、JR東海との協議に入りたい」と昨年9月、渡邊公夫町長が表明した岐阜県御嵩町。その町立図書館で、かつて町内に持ち上がった産業廃棄物処理施設計画を巡る騒動を検証した本が、町長の意向を受け1年にわたり「禁書」扱いにされていたことが明らかになり波紋を呼んでいます。 ジャーナリスト・井澤 宏明
「検閲」と議会で批判
対象となった本は、フリージャーナリストの杉本裕明さんが昨年2月著した「テロと産廃 御嵩町騒動の顛末とその波紋」(花伝社)。杉本さんは朝日新聞名古屋本社社会部のデスクとして、産廃処理施設建設を巡り当時の柳川喜郎町長が襲撃された事件(1996年)や建設の是非を問う住民投票(97年)の取材班を率いました。
この本では、当時を生々しく振り返るとともに、「産廃NO!」を突き付けた住民投票が注目を浴び全国の反対運動を勇気づけた結果、建設が困難になった産廃処理施設のその後、についても紙幅を割いています。
今回の「騒動」の発端は昨年3月、町議会定例会で渡邊町長が、同書について「不快な本」「反論(すべき点)満載の嘘本」としたうえで、「あんなでたらめを置くわけにはいかん」と発言したことです。
町教委によると、著者から同書が1冊、図書館に寄贈されましたが、同館は町長の発言を受け倉庫に保管。「人権やプライバシーに抵触していないか検討していた」といいます。
町議会の一般質問で3月9日、岡本隆子議員がこの問題を取り上げ、「町のことが書かれた郷土の本。町長の判断で図書館に入れないのは検閲行為」と迫りました。渡邊町長は町議時代の自身が同書で「町長の座を狙っている」とされていることを挙げ、「私は町長のイスを狙っていない。作り話や嘘が多すぎる」と答弁。役場の課長と係長が立て続けに自殺した経緯などについても「作り話だ」と批判、「あれだけ嘘を重ねている本を、勧めることができますか」と反論しました。
湿地の危機示した本も
町教委に今回の取り扱いの根拠を問うと、日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」に「提供の自由は、次の場合にかぎって制限されることがある」とあり、「人権またはプライバシーを侵害するもの」と書かれていることを挙げました。
しかし、同協会「図書館の自由委員会」委員長の西河内靖泰さんは「でたらめだ」と否定します。「宣言の『人権またはプライバシーを侵害するもの』というのはそもそも『部落地名総鑑』のことです」。同総鑑により被差別部落出身者であることが明らかになると、就職差別や結婚差別につながるからです。町教委の対応について西河内さんは「宣言を、自分たちの都合のいいように使われるのは心外です」と憤りを隠せません。
「町長が本のここは間違っていると主張する権利はある。でも、図書館が一方の言論を封じるなんてとんでもない。図書館に置くということは、その本を町が推奨しているということでなく、歴史的な資料として保存しておいて、必要な方に『はい、どうぞ』ということなんです」
町教委は一転して3月14日、同書の閲覧や貸し出しを決めました。その理由として、町長が「法的に訴える考えはない」と表明したことなどを挙げています。当時、教育長だった高木俊朗さんは「町長が闘うなら教委としても応援する、という形で扱いを保留していたが、図書館の自由を守っていく点からは、(同書を)受け入れたうえでその後、反論文をつけるなりすれば良かったと反省している」と述べました。
ところがその後、同図書館に町民から寄贈された別の本も蔵書として登録されずしまいこまれていたことが分かりました。対象となった「東海地方の湧水湿地 1643箇所の踏査から見えるもの」(2019年)には、リニア本体や残土処分場建設が、同町美佐野の湿地に影響を及ぼすことへの懸念が記されていました。同図書館は「『大事な本だから』と(寄贈者から)言われ、学術的に保管すべき本だと判断した」と釈明しているのですが。
リニア残土処分場による湿地への被害を懸念する記述のある
「東海地方の湧水湿地」