ティーム・ティーチング
特別支援学校ではティーム・ティーチング(以下、TTと略)と呼ばれる指導形態をとっていることがほとんどです。TTとは複数の教員が役割を分担し、協力し合いながら指導する方式のことで、今回はある年に担任したAくんと、関わった先生方の姿から、TTを考えてみたいと思います。
Aくんは前年度、同じクラスだったBくんの嫌がることを繰り返し言ってトラブルを起こしていました。自閉スペクトラム症のAくんにとって、相手の立場に立って考えたり行動したりすることは苦手です。ADHD傾向もあり、その特徴の一つでもある衝動性も加わって、ダメだと分かっていても言ってしまうことが止められないのだと推測されました。Aくん自身も叱られることが増え、お互いに辛い思いを抱えていました。
そんな二人ですが、実はアニメやゲームが好きという共通点もありました。子ども達の心を掴むのが上手なC先生は、二人の好きなアニメのキャラクターを描いたり、ゲームの話をしたりしていつも一緒に遊んでいました。どちらかと遊んでいると、関心のあることですから、もう一人も自然と近寄ってきます。そうしてC先生を介して二人が関わる姿が徐々に増えてきました。好きなことをして夢中で遊んでいるので、Aくんの嫌なことを言う姿はそこにはありません。今では二人だけで遊ぶ姿も見られるようになりました。
Aくんはまた、さまざまなことに強いこだわりをもっています。例えば時間。授業が始まった途端、いつ終わるのかが気になって、そのことで頭がいっぱいになってしまいます。D先生は経験豊富なベテランです。「何時何分に終わる?」と繰り返し聞くAくんに、「終わった時に終わるよ」と、優しくも淡々と答えます。白黒はっきりさせなきゃ気が済まないAくんに、敢えてグレーで返し続けるD先生。Aくんならばその曖昧さを受け入れられるようになると踏んでの支援です。
ほかに、勝ち負けや順番にもこだわります。図工で作品を作ると「誰のが一番だった?」と聞くし、「なんで僕を一番に当ててくれないの」と怒ります。生活のあらゆることを競ってしまうAくんですので、体育や遊びなどで勝敗がつくことは大の苦手。かけっこで何度やっても勝てない時には、「自分は足が遅い、どうせ勝てないんだ」とパニックに。そんなAくんにE先生は言います。「負けて悔しい気持ちになるのはみんな同じ。それを次、頑張る気持ちに繋げることが大事だよ」。スポーツをずっと続けてきたE先生らしい言葉です。
E先生が言い続けてきたこのメッセージはAくんの中で魔法の言葉となり、悔しいことがあると、自分で唱え、たかぶってしまう気持ちを落ち着かせようとする姿が見られるようになりました。ある時には、同じように前に進めず泣く友達に対して、この魔法の言葉をかけてあげるという出来事もありました。
TTを効果的に機能させるにはそれなりに大変なことも多いのですが、このように教員それぞれの個性を生かして幅のある対応ができるのが良いところでもあります。また複数の目で子どもを見ることで、子どもの良さをより多く見つけ、伸ばしていくこともできます。私自身、周りの先生方から学ぶことがたくさんあります。「TTを生かす」ことは、私たち教員の大事な力の一つです。 S.I