vol.191 しょうがいをみつめる vol.2

 初めて就職したのは静岡県の小学校の特別支援学級でした。担当したのは重複障害(肢体不自由、知的・情緒障害)クラス。そこで出会ったのが9歳まで発語がないと言われていたT君です。
 T君のお母さんはT君が入学する前、教育機関に「お子さんは特別支援学校へ通う障害の度合いです。普通小学校はおすすめできません。」と言われ、レッテルを貼られたような悲しい思いをしたそうです。きっと、悲しい思いをしたなんて一言で表現できるようなものではなかったでしょうが、私が出会った時は辛さを吹き飛ばすように明るく話してくださいました。
 小学校の特別支援学級では、まず一年の国語、算数など教科のカリキュラムを作ります。発語なし、絵本は数分も見ていられない、鉛筆は持てない子の国語や算数。何をすればいいのか大学の授業では教わりません。
 まずは、学校教育に対する本人のニーズや親のニーズを聞きました。何ができる様にしていきたいのか、将来望む姿など。お母さんは仰いました、「この子は私が死ぬ時に一緒に連れていくので大丈夫です。せめて楽しく通えれば。」22歳の私に言えたのは「ダメです…お母さん。」だけでした。

 カリキュラムを作る過程で、校内の特別支援コーディネーターなどと話し合い、今のT君には『マカトン法』が有効ではないかという意見がありました。マカトンとは、手話よりも簡単なハンドサインで、これから言語を獲得する人に適したサインです。ベビーサインにも似ています。
 実際にマカトンを使うまでには、何度も何度も繰り返しが必要で、もう辞めたいと思うこともありました。でも少しずつ生活の中で活用できるようになってきました。例えば、今までは欲しいものがあった時、無理矢理にでも勝手に相手から奪う様にとったり、相手を引っ掻いたりしていましたが、「ちょうだい」のサインをしたり、不明瞭であるけれど言葉を発する様になりました。
 続けて、「おいしい」「もっと」「そっと」「おしまい」「一緒に」と、生活の場面でいつも使えるわけではありませんが、使えることが増えました。また、私とだけ使っていたマカトンが、友達との関わりでも使うことが起きました。自然とサインが出て、これには私も驚きました。

 T君との日々から、言葉を発していない子どもにも内言語があり意志疎通ができること、内言語を伝える方法を知れば言葉によるコミュニケーションがとれることを確信しました。
 この可能性を感じるT君との出会いは、私の可能性をも広げてくれました。
 T君と出会った後も様々な子どもたちに出会いました。T君と出会ったことで、目の前の子どもが何をしたいと主張するのかに意識を向け、どのようなコミュニケーション手段があるか考えます。
 「この子と意志疎通ができる」という前提で接することで、子どものコミュニケーション能力が伸びていくのを肌で感じています。これは障害のある子どもだけでなく、まだしゃべれない乳幼児の子育てや障害のない子どもとの関わりでも一緒です。大人が子どもの力を信じて見守るだけで、子どもは能力をぐーんと発揮していきます。これは、発語がないと言われていたT君から教えてもらったことです。





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