VOL.161 ぎむきょーるーむ 香り、化学物質で苦しむお友だち

01   香り、化学物質で02

 

なんかこのにおい苦手…これって、化学物質過敏症っていうの?

知らないことを「ないこと」にしないでほしい。

ぼくが中学校の耐震工事で
化学物質過敏症になって7年がたちました。

田口 航

一番始めに症状が出たのは、中学1年生の夏休みでした。水泳部の練習中に自分の身体に異変を感じました。ぼくはそれまで、元気が取り柄の、友だちと遊んで笑って、皆勤賞なんかとるような子どもだった。病気ともアレルギーとも無縁でした。

このころ、中学は耐震工事で、校舎全体をビニールで覆われていました。練習に行くと、シンナー臭がずっとありました。

たしか、練習は九時からでしたが、泳いでいて気持ちが悪くなりました。吐き気がすごくこみあげてくる。それで、その日はコーチにいって帰らせてもらったんです。

03自分の体調があきらかにおかしくなったのは、9月の始業から。教室に入ると気持ちが悪いなあと思ったけれど、ちょっと最初はガマンしていました。でも、20分くらいで吐しそうになって、保健室で何時間か休んでいました。早退し、自宅で休んでいると、翌朝には調子がもどります。

毎日、朝元気に登校して、気持ち悪くなって帰るという日が続きました。頭痛、寒気、目眩も学校に行くとひどくなる。病気になる前の平熱は37 度。それが学校にいると指先とかが冷たくなって、体温も35度くらいに低下していました。あとは、眠気ですね。症状が出たその日に、かかりつけの病院に行きました。医師の診断は「風邪かな」ということでした。

数日して、母が親類から「化学物質過敏症」という病気のことを聞いて、北里大学病院へ行くことになりました。「化学物質過敏症」との検査結果が出たのは11月のことです。

結局、中学は転校することになりました。当時は、まともに授業は受けられないし、転校しか選択はなかったと思います。

今年、大学2年生になります。大学に入ってからは、だいぶ体調はいいです。

ここ数年、香料を添加した洗剤や柔軟剤で不調になる人が多いそうですね。でも、過敏症になると、結構鼻は便利です。嗅覚は大事。鼻が匂いを感知してくれると逃げることができましたから。ぼくは、臭いのしないものが一番怖かった。気がつかないあいだに気持ちが悪くなってしまう。シンナー臭はある意味わかりやすくて助かります。

実際、本人が知らないだけで、いまの時代「化学物質過敏症」は多いのではないですか。でも、まだ「化学物質過敏症」というと「花粉症?」と聞き返されます。いまは、この化学物質過敏症という名前を知ってもらうだけでもいいと思っています。

そして、自分の知らないことを「ないこと」にしないでほしい。自分がその病気を知らないから仮病なんじゃないかとか、神経質なだけじゃなかとか…症状よりそういうことに苦しんだかな。まず、そこが変わらないとどうにもならないかな。

対処、治療法について

ここのところ、「香り長もち!」を強調した合成洗剤や柔軟剤が流行しています。私も電車の中で強い香りを感じることがあります。香りは個人の好み、趣味のような側面もありますが、問題はこの香りが、化学物質でつくられたものであるということです。

化学物質過敏症の患者さんの話しを聞いていると。「まず、舌がしびれて」「頭痛を感じて」その後、香りを感じた…ということがあります。香りそのものの好き嫌いではなく、それを生成する化学物質が問題なのです。

化学物質過敏症の人にとっては、症状を誘発したり悪化させたりする、この洗剤や柔軟剤、お母さんたちの化粧品の香りをつくる化学物質も、ときには「凶器」とも思えるほどの症状を起こします。

香りを例にしましたが、これはごく一例です。化学物質はそうした個人レベルの問題で解決することではない、根深い問題という点もおさえておきたいところです。

社会全体が化学物質なしには成立しないこと、自然であるより人工的なものを優れているとする文化のなかに、いま子どもたちの暮らしがある、ということなのです。

化学物質過敏症には、現在のところ特効薬はありません。
基本的な対処、治療法は、次の四つです。

(1)室内はできるかぎりの換気を。
(2)薬やサプリメントのとりすぎに注意。
(3)養生のすすめ。早寝早起き、太陽をあびる、軽い運動をする、ぬるめのお風呂や温泉、足湯、半身浴などのリラックス効果のあるものを。腹式呼吸や就寝時の室内環境(暗くする)などの見直しも。
(4)精神的安定をはかる。

化学物質はいたるところにありますが、それを避けようとするあまり、特別な暮らしを求めるのは、よけいにストレスを高めてしまいます。病気の実態を正しく知って、できるだけおおらかに過ごす、患者さんにはそうアドバイスをしています。

宮田幹夫  北里大学名誉教授・「そよ風クリニック」院長

子どもたちに伝えるとき・教えるとき

花粉症との違い:

花粉は粒子です。化学物質過敏症の原因物質は、ほとんどガスです。マスクをしていてもほとんど取り除くことができない。それと、花粉には季節があるけれど、化学物質過敏症には季節がない。反応する物質があればどこでも起きてしまう。

化学物質の場合、ある物質で化学物質過敏症になってしまうと、徐々にほかのいろいろな物質にも反応するようになります。ですから、自分が化学物質過敏症になったころ存在しなかったような、柔軟剤の香料などでも症状が出てしまう。どういう物質で起きるかということはよくわからない。本人でないとわからないのです。

スプレー液をなめますか?

人間は食物を食べて生きているので、口から取り込んだものの防御機構は非常に精密にできています。つまり、口に入った時点で、まず異物は吐き出してしまう。

口内で咀嚼したものは、非常に強い胃酸がある胃へ入って分解する。多くのものは分解されて、小腸で吸収されて、肝臓にいきます。肝臓でいろいろな解毒をおこなったら心臓に戻って、そして心臓から体全体に広まっていく。

ところが、鼻から吸い込んだものは直接心臓に入るんです。そこにはなんの防御機構もない。肺は呼吸で取り込んだガスを血液に溶かし、いきなり心臓へ送ります。心臓にいけば当然体中に広まり、その後肝臓へ戻ってくる。つまり空気中にある毒物はいったん身体に広まってから、肝臓で解毒される。

いま、流行っている制汗剤、消臭剤、抗菌剤などのスプレー、あるいは防虫剤のようなガスのものを使う、それは大変危険なことだと思います。

よく、講演会でこんなお話しをします。皆さんが家でスプレーをする薬品の液を飲んだりできますか?なめますか?とお尋ねします。飲んだりなめたりしたくないものはスプレーしてはいけません。と、それが大原則なんです。

覚悟をもって使うもの

04いま、たとえば、乳母車のなかにでも携帯用の蚊取りを入れている人がいる。あれを見ると私はものすごくぞくっとします。小さな子どもの鼻先にそういうものを置いているとしたら、非常に高濃度のものを吸う可能性がある。

それは、小さい身体に大きな影響をあたえて、そして成長するに従って、拡大されて望ましくない影響が顕在化する可能性はある。ということを考えますと、生涯にわたって、曝露量、少なければ少ないほどたぶんいいのでしょう。

蚊もゴキブリも生き物の仲間です。それを避ける、殺すということは、なにか子どもにダメージがないとはいいきれない。そういう覚悟をもって使う必要があると、私は思います。

柳沢 幸雄
開成中学・高等学校校長・東京大学名誉教授・工学博士

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