記者雑感 From気仙沼-(Vol.17)

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02 津波で廃校になった小学校跡地に市内初の災害公営住宅が完成し、1月31日に入居が始まった。あの日から1422日。「1日、1日、待っていた。でもまだ多くの人が仮設住宅にいるから、自分だけ喜んではいられない」。佐藤淑枝さん(72)は語った。
岩手県一関市の仮設住宅から引っ越したのは佐藤さい子さん(67)。独居で車を持たない佐藤さんは、古里を離れた仮設でも駅や店に近い方がいいと考えた。ところが住み始めた直後に腰を傷めて思うように歩けず、買い物にも行けない。そんな折、気仙沼市のスーパーが仮設巡回バスの運行を始めた。佐藤さんの所は週2回。店の軒先まで連れて行ってくれるし、道路が凍っても休まない。今では体がかなり回復した佐藤さんだが、「本当に助かる」と転居直前まで利用した。
スーパー近くの飲み屋で2年ほど前、潜水士の藤代隆久さん(42)と知り合った。どんな仕事か知りたくて昨年末、津波で壊れた岩手県宮古市の防波堤復旧現場にお邪魔した。大きなコンクリートブロックが隙間なく並ぶようクレーンを海中で誘導し、海底に着けばブロックを釣っていたワイヤーを工具で外す。これを繰り返して新しい防波堤ができる。藤代さんの姿は私の乗る船からは見えない。船上のスピーカーから、「ゼー、ハー」という呼吸音が聞こえる。「ああ、藤代さんは生きている」。なぜかそんなことを思った。
暮らしと復興を支える仕事は、買い物バスや潜水士以外にも多い。税別280円にもかかわらず、大口の工事現場に限って配達を始めた弁当屋もある。経営者の鈴木恒子さん(67)に会うと、「弁当より子どもの話を」と頼まれた。子ども劇団「うを座」。学芸会は勘弁して欲しいと思いつつ、稽古を覗いてみた。
大津波警報を伝える無線とサイレン。「いやあーっ」。幼なじみが目の前で津波にのまれた姉の実体験を高校2年の鈴木菜々さん(16)が演じる。高校3年の畠山沙樹さん(18)は、同居していた祖父が行方不明のままだ。仲間の船が無事か、港に見に行ったという。畠山さんは語りかける。「ほかの人のこと心配すんのは、すごくいいことだと思う。でも自分の命ぐらい何より大事にしてもいがったんではねえがな。4年もたつし、はやぐけえってこいや、みんな待ってっからさ」。
恐れ入った。辛い体験の再現に終わらず、「世界の支援を受けた私たちだからこそ、世界の子どもに目を向けよう」というメッセージを発する後半も圧巻だ。震災前はあまり感情を表に出さなかった畠山さん。たくさん泣いているうちに、笑ったり、怒ったりするようにもなった。声優を目指して、今春、関東の専門学校に進む。

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