vol.219 やってみた 篠田 睦月さん

 

やってみたシリーズ第22弾
ゼロスタートで、作品展を開く
工房睦月・篠田 睦月さん

倉庫(作品の陳列)兼 アトリエ 兼 お昼寝べや…そんな工房・睦月を建てて早20年。2年ほど前に娘のプライベートの部屋も作ったので、製作の場が狭くなってしまったけど…そう語り始めた篠田さんは、もともと縫製が大好き。好きが興じてすてきなアトリエを作って、毎日せっせと製作しています。 「作ると、きれいにディスプレーして誰かに見せたくなる。でもここでは駐車スペースも少ないし、周りに迷惑をかけられないしね。なら、どこか他の場所でみんなに見てもらおうと、今回可児市文化創造センターalaをお借りして『アートと手作り作品展』を開催することにしたんです」。

自分の夢は学校で習得した大好きな縫製を仕事にすることだった。それで縫製に携わる会社に勤めたものの、“人にたのまれて作る”のではなく、“自分が創りたいもの”を作りたいという気持ちがだんだん強くなってきた。結婚を機に会社を辞め自分のスタンスで創るスタイルに舵を切った。それが売れるのか売れないのか、という問題はあるが、とにかく創ることを楽しみたいという気持ちが強くなってきたという。

「6年前、大病を患い初めて死を意識しました。その時、縫製にまつわる備品とか、コツコツ買い集めたパーツ(ファスナーとかボタンとか…)を手づくり仲間にあげちゃった。今まで作りためてきた作品もあったけど愛着もあるし、何より自分の思いがこもっているしと、作品の処遇を考えました。そこで、お客さんの中に赤十字に勤めている方がいらして、その方に『役に立ててもらえれば』と思って、ほとんど全部差し上げたんです」
後日、その方から連絡が来た。
「作品が好評で結構な収益になりました、ありがとう」と。自分が作ったものが、誰かの役に立てたんだと思うと、自分が救われた気がしたと本当にうれしそうに語る篠田さん。

「身辺整理をすると、なんかすごくスッキリしてね。人生のリセットというか…。そういう意味では、大病は良いきっかけを作ってくれました。今までの自分を棚卸しできたし。でも、元気になると、自分の人生を取り戻したいという思いがむくむくと出てきて。やっぱり洋裁が好きなんだと、再認識しました」。作品はみんな寄付したり、処分したけど、布だけは残してあった。
ゼロスタート!しようと作ったのが、この帽子。これでますます元気が出てきて、自分の人生を生きようと思った。病気で一度は覚悟した自分の命。よし、人生を仕切り直そう。売れる、売れないは気にせず、「創りたいものを作る!」と。
今は作ることが楽しくて、楽しんでできた作品を集めて作品展をしたいと思いを馳せ、この5月に第2回作品展が実現する。

 いろんな人と出会って…作品展のやり方を学んできた。そう考えると「自分の人生全部が作品」なんだという篠田さん。利益だけを追求するのではなく、「やることに価値がある」と。今回の文化創造センターの会場も一人では広すぎて…で、協力してくれる人を探していたら、呼応してくださった方が二人。今までお付き合いしてきた方々で、恵那の井口 久美子さんと(洋服)と、群馬の田中 克樹(切り絵)さん。

 「手作りの品って、丹精込めて作る割りに採算が合わないんだよね。でも作家たちはプライドを持っていらっしゃる。私は捨て身でやれるけど、お二方を巻き込むわけにはいかない。その塩梅が難しいです。でも、やってみなきゃわかんないです。今年は2回目。来年3回目ができるといいなぁ」と篠田さんは早くも来年の構想を練っているようだった。