vol.175 リニアに3兆円!議論深まった?

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リニアに3兆円!議論深まった?
リニア中央新幹線の全線開業(東京・品川―新大阪間)を早めるため、全事業費約9兆円の3分の1に当たる3兆円を、国がJR東海に融資するための法案が11月11日、臨時国会で可決、成立しました。リニア計画は、民間企業であるJR東海が「全額自己負担」することを前提に国が認可したため、これまで国会で議論されることはほとんどありませんでした。リニア計画に初めて公的資金を投入するための法案が提出された今国会は、同計画を徹底的に検証するまたとないチャンスでした。はたして議論は深まったのでしょうか。                     ジャーナリスト・井澤宏明

南アルプストンネル起工式の日。リニア建設反対を訴える大鹿村の住民や村外から駆けつけた人たち(11月1日、同村在住・遠野ミドリさん撮影)

南アルプストンネル起工式の日。リニア建設反対を訴える大鹿村の住民や村外から駆けつけた人たち(11月1日、同村在住・遠野ミドリさん撮影)

JR東海の負担減5000億円
「全線開業により、3大都市圏が1時間で結ばれ、人口7000万人の世界最大の巨大な都市圏が形成される。我が国の国土構造が大きく変革され、国際競争力の向上が図られるとともに、その成長力が全国に波及し、日本経済全体を発展させる」――10月4日の衆議院予算委員会で安倍晋三首相は、自らが「21世紀型インフラ」と呼ぶリニア計画の意義をこう主張しました。
今国会に提出された法案は、財政投融資(財投)を活用して、今から29年後の2045年の予定だったリニア全線開業を最大8年間早めることを目的としたものです。
国が財投債という国債を発行して調達した3兆円を、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」を通じて貸し出します。JR東海は30年間、金利だけを支払い、元本は31年目から10年間で返済します。国の試算では、JR東海の負担は約5000億円減ることになります。

麻生財務相が無責任発言
衆議院予算委員会では、JR東海が確実に返済できるのかを問う共産・本村伸子氏に、麻生太郎財務相が「それまで生きている保証がありませんので、何ともわかりません」とおどけてみせ、本村氏から「無責任じゃないですか」とたしなめられる場面がありました。
26日の衆議院国土交通委員会では、参考人質疑が行われ、アラバマ大名誉教授の橋山禮治郎氏が、全線開業で実現するとされる巨大都市圏について、「現に出来ている。リニアが出来るから巨大都市圏がまた出来るんだということは二重計算だ」と否定的な見方を示しました。橋山氏は、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)調査部長を務め、国内外の長期プロジェクトを検証してきました。

「リニアは本当に必要か」。と訴えた橋山氏(衆議院議員本村伸子事務所提供)

「リニアは本当に必要か」。と訴えた橋山氏(衆議院議員本村伸子事務所提供

「東京集中が加速」
安倍首相はリニアを「地方創生回廊」の軸と位置付けています。これについても橋山氏は「リニアは東京集中を促進する」と、その効果に疑問を投げかけました。
推進側の立場から出席した政策研究大学院大政策研究センター所長・森地茂氏は「東海道新幹線が出来るときに、名古屋は没落すると言われていたが、現実はそうではなかった」と反論。東京女子大現代教養学部教授の竹内健蔵氏は東京集中を「否定できない」としながらも、「地方は割を食ってしまうから、(リニアを)やらない方がいいということにはならない」と述べました。
その理由について竹内氏は「東京と名古屋と大阪が一体化することによって国際競争力を増し、勝ち残っていくことができて初めて経済効果がたくさん日本に入ってくる。そういう経済効果が出てくれば、地域に恩恵があるはずだ」と説明しました。

「我田引鉄」のセンセイたち
これに対し橋山氏は「国にとってもっと重要なことがある。それは全国のJRの将来だ」と述べ、赤字路線維持に苦しみ、全路線の半分の「自力維持が困難」としているJR北海道や四国も視野に入れリニア計画を見直すことを求めました。さらに、「国会の決議で中断し、リニア計画は本当に大丈夫か検討することが将来世代への責任だ」と訴え、拙速な結論をいさめました。
専門家の見解を受けて議論は深まるかと思われましたが、リニア推進の議員からは残念ながら、我田引水をもじった「我田引鉄」をほうふつとさせる発言が相次ぎました。
「2020年の東京五輪までに、品川と甲府で部分開通したらどうだと。これは山梨県民みんなが言っている」(自民・中谷真一氏)、「2025年に誘致の構想がある大阪万博会場周辺にリニアを走らせ、国内外にアピールしては」(維新・椎木保氏)。
国土交通省の回答は、いずれも「難しい」でした。

推進議員からも懸念の声
法案の衆議院通過を受け11月10日、議論の場は参議院国土交通委員会に移りました。さすがに「良識の府」だけあって推進議員からも懸念の声が上がりました。
民進・野田国義氏はかつての財投改革を振り返りつつ、今回の財投について「先祖返りじゃないか、これを利用して公共事業等を広げていくんじゃないか」、維新・室井邦彦氏は全国に活断層が2000以上あるとされていることから、「リニアは地雷の上を走るんじゃないのかなという危険性もある」、日本のこころ・中野正志氏は東京五輪特需による建設費高騰で事業費は10兆円を超えると指摘し、「経営の足を引っぱることにならないか。第2の国鉄になることを懸念する声もある」と危機感を示しました。
国の支援を追い風に、JR東海は11月1日に長野県大鹿村で南アルプストンネル起工式を行い、12月13日には、岐阜県初の工事となる日吉トンネル(瑞浪市)着工を予定しています。
巨額な公的資金が投入されることになったリニア計画。国民が関心の目を注ぐことが、ますます必要になってくるでしょう。

名古屋城に近い「名城非常口」予定地。樹木は刈られ、公園の面影はない。

名古屋城に近い「名城非常口」予定地。樹木は刈られ、公園の面影はない。

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