vol.218 夢か悪夢かリニアが通る!vol.47

 岐阜県御嵩町でJR東海が計画しているリニア中央新幹線の残土処分場受け入れの是非を巡り、町が設置した審議会が迷走しています。委員の大半に受け入れに否定的なメンバーを集めた一方で、審議の途中から町長が一部受け入れを容認するような発言をし始めたのです。                                 井澤宏明・ジャーナリスト

 

迷走する御嵩町審議会

新町長が「一部」容認
JR東海は御嵩町の坑口から掘る2本のトンネルから出る残土約90万立方メートルを坑口に近い山林の谷間に処分する計画です。うち「健全土」約40万立方メートルを民有地と町有地(候補地A)に、カドミウムやヒ素などの重金属を基準値以上含む「有害残土」を含む約50万立方メートルを町有地(候補地B)に埋め立てる計画を同町に示

候補地Aにあるハナノキと思われる巨木。案内してくれたJR東海職員は「希少種保護の観点で教えるわけにはいかない」と樹種を明らかにしなかった。残土処分場になれば伐採されるというのに(2024年1月10日、岐阜県御嵩町美佐野で)

しています。
2021年9月、当時の渡邊公夫町長が有害残土について突然、「受け入れを前提として協議に入りたい」と表明して反対の声が広がり、同町が有識者を交えてJR東海と協議する「公開フォーラム」を始めたものの頓挫したいきさつはこの連載42回目(にらめっこ213号)までにお伝えした通りです。
渡邊町長から判断を「丸投げ」された形の渡辺幸伸・新町長が「受け入れ前提」方針を「白紙のゼロベース」に戻すと表明して設置したのが今回の審議会です。委員14人のうち9人を有害残土の受け入れに「反対」だったり、残土処分場そのものに「反対」だったりするメンバーが占めました。
23年11月19日の第1回審議会では候補地A、B両方について議論の対象にするとしていた渡辺町長ですが、12月3日の第2回会合では突然、「候補地Aは(JR東海の)自社用地であることから、計画の全否定だけでは交渉は極めて困難。代替案や具体的な提案が必要だと考えている」と発言したため、委員から猛反発を受けました。
町長発言の直前には、JR東海の担当者が、候補地Aの大部分を占める民有地を地権者全員から取得済みであることを明らかにしました。しかも、買い取りは公開フォーラム開催中に始まっていたといいます。
途中退席し報道陣に囲まれた町長は、11月28日にリニア中央新幹線建設促進岐阜県期成同盟会(会長・古田肇知事)がJR東海に要望書を提出した席で、同社から「他のところで(土地を)探すのは、事業スケジュールなどを考えるとなかなか難しい」と伝えられたと告白しました。

公募委員やむなく辞任
審議会の「ゴールポスト」を動かすような発言は続きました。会長を務める三井栄・岐阜大学社会システム経営学環教授(計量経済学)が今年1月14日の第4回会合で、「審議会として御嵩町以外のところに健全土を持っていくという話は非常に無責任な話になると思う」と発言したのです。
しかし、リニア残土を他の自治体に持ち出している例は数多くあるうえ、愛知県から岐阜県に運び込んでいる例もあります。21年11月14日に開かれた当時の町長と住民との意見交換会でJR東海の担当者も「御嵩町の中から出たものは御嵩町で処分しなければならない法的な義務はありません」と明言しています。
三井会長は「岐阜県におけるリニア中央新幹線開業の経済効果」という論文を書いたり、十六銀行の「リニア中央新幹線を活かした地域再生・活性化に関する報告書」 のアドバイザーを務めたりしていますが、審議会では中立の立場での運営を求められているはずです。
筆者は1月28日の第5回会合後、三井会長に尋ねました。「(会長の発言は)町外に持ち出す結論を出すのは審議会として無責任だというふうにとれますが、そういう意味ではないですか」。三井会長の答えは「はい」。傍らにいた町職員によると「そういう意味ではない」ということだそうですがどうにも腑に落ちません。

残土処分場「一部」容認に転じた理由を報道陣に説明する渡辺町長(2023年12月3日、御嵩町役場で)

一方、町長が選任した委員の1人が、町長の「一部容認」の意向を受け入れるよう他の委員らに電話で働きかけていることが発覚(当の委員は筆者の取材に「してません」と否定)。この行為を止めるよう審議会で呼びかけた公募委員の元に、先の委員から弁護士を通じて脅しや口封じともとれる「通知書」や「電報」が送り付けられ、耐え切れず辞任に追い込まれるなど、審議会内外の不穏な動きからも目が離せません。





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