リニア中央新幹線の工事実施計画の認可取り消しを求め、沿線住民らが国を相手取り7年前の2016年5月に起こした行政訴訟「ストップ・リニア!訴訟」の判決が7月18日、言い渡されました。連休明けのこの日、東京地裁入り口にあるX線手荷物検査機が故障するトラブルが発生し、係員が手荷物を一つ一つ確認。東京都心で最高気温が37.5度を記録する中、傍聴人には高齢者が多いのにも関わらず長時間待たされる羽目に。この影響を受け、午後2時開廷の裁判は傍聴人がすべて席に着くのを待ち、約15分遅れてスタートしました。 井澤宏明・ジャーナリスト
住民の声、司法に届かず
「請求を棄却」
判決は、口頭弁論終結後に異動した市原義孝裁判長に代わり、篠田賢治裁判長が代読。篠田裁判長は小声で主文を読み上げ、「いずれも棄却する」という言葉が辛うじて聞き取れるだけ。
「聞こえません」「ナンセンス」「不当判決」と傍聴席から怒号が飛び交う中、3人の裁判官はそそくさと逃げ帰るかのように退廷しました。その間、1分足らず。
主文は「原告らの請求をいずれも棄却する」というものでした。判決文は700ページにも及びましたが、原告団や弁護団は直後に出した「声明」で「本判決は、国及びJR東海の主張を丸写しにしたものであり、現実に生じている(山梨)実験線での環境被害を無視したもので、責任ある判断を放棄したに過ぎない」と痛烈に批判しました。
どのような内容なのでしょうか。争点の一つ、環境影響評価を例にとってみましょう。原告側は、JR東海の環境影響評価は、トンネル掘削により発生する残土の置き場を十分に確保しなかったり、駅や車両基地などどんな鉄道施設を造る計画なのかを明らかにしなかったりしたまま行われた杜撰(ずさん)なもので、そのような環境影響評価に基づいた工事実施計画を国が認可したのは環境影響評価法違反だ、などと主張しました。
これに対して判決は、残土(発生土)置き場を十分確保しなかったことを容認する判断を以下のように示しました。「環境影響評価の手続上、原告らの主張するような発生土置き場の位置等を具体的に特定すべきとする法的な根拠までは見当たらない」「環境影響評価の手続は、事業の内容が順次具体化していく過程で、事業特性等を踏まえつつ実施されるものであって、必ずしも(環境影響)評価書の作成時にあらゆる事項が具体的に特定されていることまでは求められていないものと解される」「最終的に、発生土置き場等を必要とする量等を確定することが困難であったことなどから、本件評価書の作成時に、全ての計画を具体化することまではできず、事後調査を検討すべき状況にあった」
「杜撰アセス」を容認
どんな鉄道施設を造るかを明らかにしなかったことについても、判決は以下のように容認しています。「原告らの主張するように、鉄道施設の形状等を具体的に特定するよう求めることは、建設線の建設の事業を実施しようとする事業者に実行可能な範囲を超えて困難を強いるものにほかならない」
そのうえで判決は、「評価書の記載事項等を精査しても、国交大臣の判断が重要な事実の基礎を欠き又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかとまではいえないし、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない」と国土交通大臣の「裁量」を広く認め、原告の主張を退けました。
記者会見で原告団長の川村晃生・慶應義塾大学名誉教授は「我々が7年にわたって住民被害や環境への影響、安全性の問題など、鉄道事業が持っている根源的な問題を投げかけてきたのにも関わらず、裁判官が全く汲み取らなかった点に不満、憤りを感じる」と悔しさをにじませました。
国会内で開かれた報告集会では、行政法や環境法が専門の礒野弥生・東京経済大学名誉教授が「環境アセスメント(環境影響評価)をどう評価するかについて裁判所は全体的に消極的だが、(今回の判決は)ひど過ぎる、最悪だなと思った。この判決をこのままにさせておいたら、次の裁判、他の事項にとってもすごく問題だ」と、東京・神宮外苑の再開発問題を例に挙げて警鐘を鳴らしました。
原告側は7月28日、東京地裁判決を不服として東京高裁に控訴しました。