リニア中央新幹線を巡る対照的な2つの集会が5月末、東京で開かれました。一方は、「講演&シンポジウム 立往生するリニア建設」。7月18日に東京地裁で予定されているストップ・リニア!訴訟判決を前に原告団などが主催、「リニア新幹線と南海トラフ巨大地震」(集英社新書)の著書がある地震学者で神戸大学名誉教授の石橋克彦さんが講演しました。もう一方は、「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」総会です。こちらは沿線10都府県で構成し、リニアの早期実現を目指す会。昨年7月加盟した静岡県の川勝平太知事が出席するとあってマスコミも注目する中の開催でした。今回はこの総会でどんなことが語られていたのかレポートします。 井澤宏明・ジャーナリスト
「リニアムラ」の住人たち
「進捗率」には触れず
リニア建設促進期成同盟会の総会は5月31日、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急に約260人を集めて開かれました。副会長の川勝知事が登壇したのは会長の大村秀章・愛知県知事らに次いで3人目。冒頭、「静岡県は一貫してリニアに賛成しております」と述べると、少なからぬ出席者は顔を見合わせ、驚きの表情を見せました。
続いて、静岡県が県内の着工を認めていない南アルプストンネル問題に言及しました。「南アルプス工事を含め、トンネルを掘ると2つの問題が出てきます。1つは水です。もう1つは掘削土です」。川勝知事は具体的な課題を列挙した上で、「これらを合理的に解決すれば、何の支障もない。ぜひぜひ皆さま方のお知恵を拝借し解決しながら、リニアの成功に向けて協力したい」と挨拶を締めくくりました。が終始、不機嫌そうな大村知事の表情が印象に残りました。
他の知事は競い合うかのように、いかに県内の工事が順調に進んでいるかということをアピールしました。
「トンネル区間は9割強が契約。明かり(地上走行)区間は、釜無川橋梁に続き、笛吹川、濁川橋梁が着工するなど、県民に目に見える形で着実に進捗している」(長崎幸太郎・山梨県知事)、「県内の工事契約率96.9%ということで、発生土の処理の問題を始めさまざまな課題があるが、一つ一つ解決しながら事業が着実に進められてきている」(阿部守一・長野県知事)、「岐阜県も順調に進んで来ており、工事が本格化したという状況。その象徴が昨年6月の岐阜県駅舎本体の起工式で、いよいよ始まるなということを実感している。15工区のうち13工区の契約が実施済みで、12工区で既に工事が進んでいる。全体の91%」(古田肇・岐阜県知事)
どの知事も工事の「契約率」は明言するのですが、工事の「進捗率」には一切触れません。なぜなら、各都府県の工事は大幅に遅れており、川勝知事が昨年9月、神奈川県視察の際に指摘した「不都合な真実」だからでしょう。
アセス開始をごり押し
来賓はリニア「夢物語」を次々と披露しました。「早期実現を目指す議員連盟」の高市早苗衆議院議員(奈良県)は「大地震が来た後のことを考えてみてください。(リニアが走る)大深度は比較的強いですから、何とか流通が維持される。今朝もJアラートが鳴りました。飛来物があったときでも避難場所としての考え方もできるんじゃないか」と呼びかけましたが、冒頭の石橋名誉教授によると、南海トラフ巨大地震発生時に起こる「複合災害」では、津波被災者などから救助要請が殺到し、南アルプス山中のトンネル内に停車したリニアの乗客を救助する人員は割けず、JR東海は原発のような自主防災組織を用意する必要があるといいます。
総会では、「名古屋・大阪間については、(中略)2023年から環境影響評価(環境アセスメント)に着手すること」とした決議を採択しましたが、JR東海の宇野護副社長は今年4月11日、国の有識者会議後の私の質問に「(名古屋)以西のアセスについては、静岡工区着工の見通しがついて、(品川・)名古屋開業の見通しがハッキリした段階で考えていく話なので、今年やるというのは考えていない」と否定しています。
どこか浮世離れした「原子力ムラ」ならぬ「リニアムラ」の住人たち。「不都合な真実」からいつまで目を背け、ごまかし続けるのでしょうか。