vol.212 檻の中のライオン


「檻とライオン」とは何をたとえているのか。
百獣の王・ライオンは国家権力です。その国家権力を動かす仕事、これが政治家。ライオンが暴走したら危ないから檻の中にいてもらおうと、この檻に当たるものが憲法です。もしライオンが檻を壊して外に出ようとしたら、憲法違反!
憲法で主権者とされているのは私たち国民です。主権者である私たちが、この檻を壊しちゃダメと言わなきゃいけない。
憲法ってそもそも何のためにあるのかなというのが今回のお話の出発点。木でいうとここが「根っこ」となります。

あなたは人権を誰からもらいましたか?
「国」?「憲法」?「それ以外」?

答えは、「それ以外」です。人権というのは憲法以前の問題です。天賦人権・生まれながらに天から授かっているのが人権です。11条をみてください。人権は生まれながらに、天から自然に与えられているものです。
歴史を振り返って見ましょう。権力が濫用されて無茶な政治が行われて、人が当たり前に持っている人権というのが、犯されてきたという背景があります。
みんなそれぞれ違うけど、みんなが共存できるような仕組みを作っていかなきゃね、これが憲法のテーマです。そもそもなんで政治が必要なのでしょう。それは一人ひとり立場の違う人が、その人らしく生きて暮らしていけるように国家権力を使って整えていく。これが13条「個人の尊重」の根本です。どんな政治権力であってもこれを尊重するのが大前提だと思います。しかし、権力というものは濫用されがち。そこで、「ライオンにやってほしいこと、やってもらっちゃ困ることを書いたから、これを守って政治をやってくださいよ」。これが憲法なんですね。こういう考え方が「立憲主義」といいます。

「立憲主義」→ライオンは檻の中へ
この檻は何のため、誰のためにあるんですか?私たちを守るためにあるんだから、この檻はわたしたちが作らなきゃ。檻を作るのも改修するのも私たちです。これを「国民主権」と言います。まず出発点は、民が主だから民主主義、ですね。民主主義の採決は多数派の意思で決定されます。私たち一人ひとりが主権者なんだぞ、主体的に政治のことに関わろうとしていくぞ、と一人ひとりがそういう意識を持っていてこそ「民主主義」の中身は充実するんですね。数の力でお前の人格を否定する、なんていうことをやってはいけません。少数派が尊重されるにはやはり「話し合い」です。

ここからは、枝・葉の話です。
「話し合ってますか?」について考えてみましょう。53条に「内閣は国会の臨時会を招集することができる。いずれかの議員の1/4以上の要請があれば内閣は召集を決定しなければならない」とあります。話し合いをするのが、立憲民主主義。 少数派の人権が犯されにくくするために、1/4しかいない勢力の意見も聞こう、ということです。
2017年、野党の議員が「モリカケ問題などもっと追求しよう」と臨時国会を開くよう要求しました。3ヶ月以上放置され、9月の終わりにようやく開かれた。でも臨時国会を開いた瞬間、はい、衆議院解散!って。秒で終わっちゃった。
そういう解散をしてもいいんですか?解散権を使うのは内閣です。内閣の解散権は、内閣のためにあるのではありません。これは53条違反です。
2020年、コロナが来た時の夏に同じことが起きました。野党が53条に基づいて臨時国会を開けと要求。今度は夏休みー。2021年も全く同じ流れです。この夏は自民党内のイベント、自民党総裁選をやってましたね。誰を看板にすれば選挙に勝てるかって。翌月の衆院選ではまた相変わらず、自民党が勝ちました。
2022年8月。一応臨時国会が開かれました。でも3日で終わっちゃいました。だって、岸田さん、安倍さんの国葬をやりたいばっかりで…。国葬をそんなにやりたいなら、国会を急いで開いて、やり方とかちゃんと議論しなきゃ。国葬をやりたいという一方で、国会はやりたくないという。それは筋が通っていない。

「平和」と「自由」
ライオンを檻に入れることで私たちの何を守っているのか、
「平和」と「自由」、この2つです。
まず平和主義。軍事力を憲法というルールで縛っておく、それによって戦争を防ぐんだ、と。これは「根っこ」から育つ「幹」です。
自民党の改正草案、何が問題なのでしょうか。自衛隊を書き込むなら自衛隊を縛るルールも書き込まないと。九条の2項、これが日本国憲法の特色と言われていますね。「ライオンは、戦力、交戦権、軍事力は一切使っちゃだめです。自衛隊って戦力じゃないんですか?違憲じゃないんですか?」という議論が昔から行れています。自衛隊ができたのが、1954年。「これは戦力じゃない。合憲です」これが政府解釈。
みんなが人間らしく生きられるためには、「自分とこが攻められたら自分の身を守らなきゃ人間らしく生きられない。だから自分の身ぐらい守っていいでしょ」って、これを「個別的自衛権」といいます。これを憲法は否定しているわけじゃない。これができるための実力部隊は戦力と言わなくてもいいんじゃないかと。そういう解釈で自衛隊は存在してきたわけです。
「集団的自衛権」の方は檻の中のライオンは手が届かないようにしてきた。そういう区別で長年自衛隊というものが存在してきたということです。
檻の中のライオンは権力の及ばないところに置いてあるので、もし「集団的自衛権」をやる必要があるなら、この檻を広げる改修工事をして「集団的自衛権」を中にいれなきゃいけない。憲法改正手続きをやらないと、この集団的自衛権はできないわけです。現行憲法ではこれ禁止されているんだから。
ところが、2015年、憲法のルールがライオンによって勝手に破られてしまいました。衆議院本会議において、「安全保障関連法案」が与党のみによる賛成多数で強行採決されたんです。集団的自衛権を改憲せずに、勝手に檻を破って外にあるものに手を出しちゃった。これは檻の破壊、つまり憲法違反と全国すべての弁護士会が「これは違憲です」という意見を公式に発表していますが、そんなことはお構いなしに多数決で法律をつくってしまった。改憲しないとできないことを勝手に決めてしまった。
改憲するのは誰ですか?国民ですね、「国民が憲法を作る」、「国民が憲法を変える」ということなんで、時の権力がどうしても憲法を変える必要があるなら「国民のみなさん、主権者のみなさん、改憲をしてもよろしいでしょうか」と、お伺いをたてるということが必要だったんだけど、勝手にやっちゃったということ。国民主権をないがしろにするやり方をしたということです。

いま話題のトピック
「敵基地攻撃能力」。日本からよその国の基地を攻撃できる、そういう技術能力を備えていこう。そのためにはまずアメリカからトマホークとやらを買ってきます。それが本当に私たちのためになるのかどうか、あと使われ方が問題ですね。
そういったいろんな個別の安全保障に関する政策が憲法の枠に収まっているのか収まっていないのか…。「これは合憲です、檻の中です」という前提で政策を考えなきゃいけないのに、檻そのものが壊れている感じがします。

憲法というのは、いくら時の政権であってもこの檻の中、という安心感があったけど、今は政権とって、数で勝っちゃうと何をしてもいい、みたいになりかねない。14条という檻で縛っているわけですが、権力を持ったライオンは、「僕、国有地とか持っているけど、8億円に値引きしてあげようか」とか、「君だけは獣医学部ができるようにしてあげよう」とか、「桜を見る会に来たら税金でごちそうしてあげますよ、後援会のみなさん」とかいろいろありましたね。日本学術会議問題では、6人の学士さんはなぜか任命しませんでした。なぜ任命しないのか説明はしないけど、なんか嫌なんです、みたいなね。権力者に気に入られるかどうかが勝負?それで忖度ということが流行ったり…。

檻が壊れないために
「改憲手続きの規定」。この規定はライオンの力だけでは変えられませんよ、とハードルを高くしています。具体的に「第何条をこのように変えよう」という改憲案が国会議員の3分の2以上の賛成がないと発議ができません。仮に発議されても、それから国民投票があります。改憲は簡単ではありません。だからと言って、改憲されないから安心では全くありません。憲法を無視する政治で国葬とか、臨時国会やらないとかは、全部憲法違反なんです。そこにかけるブレーキは二つあります。三権分立という権力同士がブレーキをかける仕組みがひとつ。そして、私たちがかけるブレーキです。それが大事です。このブレーキは、「主権者意識を持つ」「政治に関心を持つ」主権者なんだから檻を壊すときは私たちがちゃんとダメって言わないと、ダメなこと(憲法違反)がまかり通ってしまいます。
12条をみてください。「この憲法が国民に保障する平和と及び権利は国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない」と。一人ひとりが政治に関心を持ち、憲法を学び、投票に足を運ぶ、そういった努力をしてこそ私たちのための政治が行われ、私たちの権利が保障されるんだ、ということです。
とはいえ、普段あまり憲法のことを考える機会はないかもしれませんが、憲法のことを考えなくても普通に生活ができている、それは憲法のおかげなんですよ。

知る⇨考える⇨行動する
憲法を学び、時事問題を知ろうとする、考える、そして投票所に足を運ぶ。その他いろんな政治行動をしましょう。
今回は「知る」「考える」「行動する」この三拍子そろった主権者になれるように不断の努力をしていきましょう!という話でした。今日の話を聞いて新たに知ったこともあるかもしれませんが、ふ〜ん、と知っただけで終わらないように。行動して初めて話した意味がある、と僕は思っています。

講演会「檻の中のライオンin各務原」より(2022年11月15日つくる・みらいの会:主催)

憲法がわかる46のおはなし
『檻の中のライオン』
楾 大樹:著 かもがわ出版
定価(本体価格1,300円+税)

楾 大樹(はんどう たいき):弁護士(広島弁護士会)、ひろしま市民法律事務所所長。1975年生まれ。『けんぽう絵本 おりとライオン』、かもがわ出版、(2018年)を刊行、いずれもヒット作に。講演は全国29の都道府県で230回を超える。檻を憲法に見立て、国家権力はライオンのぬいぐるみ。視覚的にも工夫をして分かりやすい活動を進めており、小学生から高齢者までファンを増やし続けている。





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