vol.203 連載-3 南の島よりハイタイ

平敷屋(へしきや) エイサー

 沖縄の(うちゅなーぬ) お盆(しちぐわち)は、旧暦の(7月13日~15日)です。
 お盆の最終日(ウークイ)は、ご先祖様のお見送り。あの世に戻るご先祖様の霊をお送りするためのエイサーが、各地で奉納されます。その中で、うるま市平敷屋のエイサーは、昔ながらの形が継承されており、ぜひ紹介したいエイサーです。カミヤーと呼ばれる祖霊を祀る社の建物前、普通の路上で奉納されます。所属できる年齢は、男性が25歳以下、女性が22歳以下と決まっており、西(イリ)と東(アガリ)の二つの青年会に分かれています。
 まず片方の青年会が住宅街の向こうの路地から「ヘイヘイ、ヘイサンダー、ヘイマーチャ」とユーモラスな歌声と共に歩いてやってきます。平敷屋のエイサーは、大太鼓は、使いません。パーランクという小さい太鼓をたたきながら踊るのが特徴です。中腰で90度回転しながら変える動きを挟んだ踊りは相当な脚力が必要と思います。日常に見られない、ある種異様な動きの一団がゆっくり近づいてくる様子、それが普段使っている路地の向こうから現れるという昔の人の「演出力」は、感動ものです。
 エイサーの花形である「テークチリ」の衣装は地味で黒と白のみ。頭には手ぬぐい(ティサージ)を前結びで巻く。曲によって踊りの隊列や組み合わせが変わりますが、テンポはほぼ一定でゆっくり。あえて個性を押し殺すような集団的舞踏が特徴です。また「ナカワチ」が踊りながら鳴らす指笛の音、動物のような長いまげのカツラに鉢巻き姿も楽しいものです。休憩時にナカワチが、ブリキのヤカンで水を配り、クバの葉の扇で踊り手に風を送る姿も印象的です。 踊り手を支える伴奏パート、地謡(ジウテー)の存在も大切です。三線(サンシン)を奏で沖縄民謡を歌いこんだ渋い声が若者ののどから出てきます。沖縄芸能の底力を感じます。
 この平敷屋のエイサーは、数回見に行く機会に恵まれましたが、若者たちの真剣さが心に残ります。観客に向けての演技ではなく、超自然的ものに向けて畏敬の念を感じてやっているのが伝わってきます。
 現代では旧暦のお盆に合わせた日取りは設定しにくく、行事は週末になりがちですが、沖縄では、それが平日であろうが旧暦に忠実です。満月にエイサーは、とてもよく映えます。夜間照明のなかった昔、こうして月光の下で、ご先祖様を送ったということに思いを馳せると感動もひとしおです。


かとう まみ プロフィール
岐阜市生まれ。桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ専攻卒業 ・2015年5月:写真集「奥飛騨に響く種蔵の里」(岐阜新聞社)出版 ・2019年6月:写真集「ばあちゃんぼくが継ぐ」(岐阜新聞社)出版・個展3回 岐阜市美術展委嘱作家岐阜市美術展部会推進委員・岐阜県写真作家協会会員・二科会写真部岐阜支部委員・ギフフォトクラブ会員