vol.200 ボーダーレス社会をめざして vol.59

NPO法人オープンハウスCAN 理事長 伊藤佐代子

生きがい見つけ?って

 障がい福祉の世界に、「障がいのある人に生きがいを見つけてあげなくては・・。」という流れが一時期ありました。しかし、ある講演会で「人の生きがいを見つけるなんてお節介だ」と言う人が現れました。長野県の福岡さんと言う人です。
 今まで生きがいを見つけてあげるということが、変だなと思ってきていましたので、その言葉はストンと腑に落ちました。それは、私にとっては衝撃的な事件で、今でもその時のことを思い出します。そうですよね。人の生きがいを見つけてあげるなんて、驕り以外何物でもない。上から目線ですし・・・。
 息子を見ていると次から次へと好きな事を見つけてきます。それは、いろいろな経験をしてきたからだと思うのですが、周りにいる人たちが、そのように経験ができる機会を作るという事が必要なのだろうと思います。私が働いているオープンハウスCANの会員さんの中には、乗馬、和太鼓、水泳、体操、陸上、劇、旅行、パソコンなど好きな事をやっていらっしゃる人が多いです。先日も「障がいのある人が行ける習いごとが、何かありませんか?」と尋ねられた人に、乗馬(ホースセラピー)がありますよと紹介したことがあります。実際にそこに通っている人にコンタクトを取り、連絡先などをお教えしましたら、すぐに予約され、乗馬を楽しまれたようです。
 このように親御さん、周りの人の行動力にかかっています。生きがい見つけではなく、何か障がいのある人の心にヒットするものはないか。親・周りの人の頑張りどころです。障がいある無しに関わらず、人には何か好きなものがあるという事が、人生に彩りをつけてくれます。
 では、私の生きがいは?正直、考えたことがありません。毎日淡々と暮らすことで十分だと思っています。ガンと向かい合った時も、何かのためにどうしても生きなければという思いは一切ありませんでした。しかし、がんで手術をした後に、願いが叶うのなら2、3か月だけでいいから、普通の体に戻して欲しいと思いました。なぜなら、障がいのある人に書道を教えていますが、何も彼らに言わずに書道教室をやめてしまうことはできない。せめて一言だけでもいいから、挨拶をしたいと思いました。その時、障がいのある人の書道教室が、私自身の心の中にウェイトを占めていることを知り、不思議な気持ちになりました。これは、生きがいではなく、やり残したことの一つだったのだと思います。
 今では、この書道教室も後継者作りを始めていて、次にバトンタッチできるようにしています。障がいのある人の笑顔が、いつまでも続くのが私の一番の願いです。