vol.195 夢か悪夢かリニアが通る!vol.24

 新型コロナウイルス感染拡大で、東海道新幹線の3月1日から25日までの乗客が前年同期比で55%減ったとJR東海が発表しました。4、5月の「のぞみ」減便も決まっています。7年後、リニア中央新幹線品川―名古屋間が完成したらどうなるでしょう。新型ウイルスや南海トラフ地震などで人の往来が激減したとき、新幹線とリニアを運行するJR東海へのダブルパンチとなり、想定されるのは日本航空が経験した公的資金投入による再建です。一方で新型コロナは、職場以外で仕事をする「テレワーク」や「ネット会議」の普及を加速させました。世界は大きく変わろうとしています。「ポストコロナ」(コロナ後)の時代に、品川と名古屋を40分で移動するリニアが必要とされるとは思えないのですが。
                             井澤宏明・ジャーナリスト

国交省 「中立」のムリ

静岡県のリニア環境保全連絡会議にオブザーバー参加する国交省の森室長(左、右は難波喬司副知事、(2月10日撮影)

委員に「リニアムラ」住人

 リニアの南アルプストンネル建設工事により大井川の水が毎秒2トン減るとされる問題などを巡り、JR東海と静岡県との議論はこう着状態に陥っています。「仲介役」を買って出た国土交通省が提案したのが、JR東海に助言・指導を行うための有識者会議の設置。ところが、委員の「人選」で早くもつまずきました。
 国交省が3月6日に示した候補のうち県が問題視したのは、森地茂・政策研究大学院大学政策研究センター所長(交通工学)。JRの前身である旧国鉄出身で、JR東海の中央新幹線懇話会メンバーや、リニア静岡工区などの工事を受注している大成建設の社外監査役も務めている「利害関係者」です。
 そのうえ、リニア計画を推進した「中央新幹線沿線学者会議」で活動し、リニア技術にお墨付きを与えた同省「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」委員長も務めました。
 記憶に新しいのは、リニア全線開業(大阪延伸)を早めようと、JR東海に3兆円の財政投融資を行うための法改正が議論されていた2016年10月の国会です。森地氏は衆議院国土交通委員会に参考人として出席し、現在も各地であつれきを起こしているリニア建設で発生する残土問題について、「既に土捨て場を契約していると聞いている」と発言したのです。
 同省は2014年にリニア計画を認可し、財投を可能にする法改正を行った、いわば「当事者」。仲介役としてふさわしいのかどうかが注目されています。どうして「リニアムラ」の住人ともいえる森地氏を委員候補にしたのか、同省鉄道局施設課の森宣夫・環境対策室長に3月9日、電話で尋ねてみました。
 筆者「森地氏はリニアを推進してきた方ですよね」、森室長「森地先生も、何が何でもやってやろうではなく、(同省の)技術評価委員会でも『ちゃんと全部の技術の課題がクリアにならないと、私は認めない』とおっしゃっている。JR東海寄りだったら困るが、そういうわけではない」、筆者「国交省は、中立性を保つつもりはないんですか」、森室長「あります。静岡県がどう判断されるか。多分、何らかはおっしゃってくるんじゃないかなと」

静岡県が「異例」の公募

 森室長の予想通り、静岡県の川勝平太知事は13日の定例会見で「有識者会議は中立性が十分に考慮されると思っていたが、強い疑念が抱かれる人が入っている」と同省への不信感を露わにしました。県は、地下水などの水循環に詳しい有識者を3月末まで公募し、委員候補として同省に推薦する異例の対応。これに対し同省の水嶋智鉄道局長は17日、「このような展開になり大変驚いている」と不快感を示しました。
 結局、同省は森地氏を委員候補から取り下げましたが、「委員ではなく別の立場」で有識者会議に参加させようとしています。これを県は拒否、4月中旬にも会議をスタートしようと前のめりな同省に対し、感染拡大への配慮を求めています。
 元共同通信記者で芥川賞作家の辺見庸さんが感染拡大を受け、次のように書いていました。「このたびの災厄は(中略)テクノロジー万能を信仰してきた世界とそれを支えてきた人類への『壮大な反撃』―という面もあるのではなかろうか」(4月4日付岐阜新聞『マスクとミサイル』)
 「リニア信仰」も見直すときが来たのではないでしょうか。

東海道新幹線車内から見る大井川。かつては「越すに越されぬ」と詠まれた東海道の難所だった(2月27日撮影)