vol.192  土のある暮し

日々の暮らしの中で「循環生活」をスタート!と題して、前号は、台所→堆肥→野菜→台所…を実現する「ダンボールコンポスト」を紹介しました。今回は、「土の循環」について。そこには、私たちの暮らしに欠かせない大切な世界がありました。

大事なものは、土から生まれる。

土は、私たちの命を支えている
 人が摂取している食べ物の99.7%は土から育ったもの(※国連食糧農業機構・FAOのデータより)であることを、ご存じですか。動物はもちろん、昆虫や微生物に至るまで、食べ物を得る場所として、生きていくためのすみかとして、土は生き物にとって欠かせない存在です。土は、水を循環させていることを忘れてはなりません。私たちをふくむ多様な命は、土から始まる食物連鎖に支えられて今日も生きています。

土づくりは、自然が教えてくれる
 人が手を加えていない森の中では、土と植物がバランスを保ちつつ、持続的な仕組みを作っています。古くから伝わる「土づくりは自然から学ぶ」という言葉にうなづけます。しかし、農業での主な関心事は肥料や農薬などの散布について、ではないでしょうか。農薬や化学肥料は作物にとって、農作業者にとって都合のいいものでしょうが、結果的には土を劣化させてしまいます。リビングソイル研究所では、「土の劣化を抑制して再生させる」ことを提唱しています。

土の再生が、世界を変える
 “土壌を再生すれば、発展途上国を悩ます飢餓だけでなく、水不足や地球温暖化に対処する道も開けてくる”ナショナルジオグラフィック 2008年9月号 『食を支える土壌を救え』では、土壌を再生することで、
「▪気候変動を解決▪生物多様性の回復▪食べ物の質の向上▪飢餓・貧困を解決▪有害・汚染物質の分解▪ゴミの削減▪水の保全・水質向上▪健康向上・医療費削減▪植生の回復・植物の生育促進▪酸性雨などからの緩衝▪空気の質が向上▪海や湖など、生物の環境を快適に、」なると述べ、さらに、
 「農地や身近な環境で土を再生できれば、現代社会が抱える多くの課題を解決へと導くことが可能です。土の機能は、植物を育てたり、支えることだけではありません。水の循環サイクルでは大切な機能を果たしており、土に侵入した有害物質を分解する他、酸性雨の影響を緩和。河川や湖、海の生態系にすぐれた効果を発揮します。また、草木や家畜の排泄物、生ゴミを適切な状態で土にもどすことによってゴミが減り、土は肥沃になっていきます。土は、私たち人間の食べ物だけでなく、バクテリアや菌類などの微生物にも作用するため、生物の多様性が幅広いレベルで守られることになるのです。飢餓や貧困に苦しむ地域で土が再生されると、作物の収穫量が増え、水や燃料などに用いる樹木の生育もよ

くなって食べ物の質や栄養価の向上に影響を与えます。「土の再生」を社会の仕組みに織り込んでいくことは、さまざまな課題の解決につながっていくのです。」と、述べています。

土の再生って?
 土は生きている—土壌動物が育む土壌環境 横浜国立大学金子信博氏の研究によると、土の中の微生物、土壌動物の関係性が土をより良い状態にしていくとのこと。地球は土の惑星!土は命の源。私たちの食は「土の力」に支えられています。しかもその土を耕している微生物、土壌生物は土に循環をもたらす働きをしています。その一部をご紹介します。

土の惑星
 よく「土は生きている」と言われます。確かに土には驚くほど多くの、そして多様な生きものが暮らしています。その顔ぶれは、細菌・カビなどの微生物から、センチュウ・トビムシ・ササラダニなどの小型の土壌動物、ミミズやヤスデといった大型の土壌動物までさまざま。そのほとんどが私たちにははっきり見えない大きさですが、肉眼で見える動物に限ってみても、地上の動物の数倍から10倍程度の量の動物が、地表からせいぜい50cmほどの深さの土壌の中に生息しています。宇宙の中で地球を特徴付けるものはたくさんありますが、陸地が生物に満ちた土壌で覆われているという点も地球の大きな特徴です。

ミミズやヤスデが炭素を溜める
 土壌食で知られているミミズやヤスデの糞を調べると、土壌よりも炭素濃度が高くなっています。これは有機物と土壌を混ぜて食べるため。食べられた有機物は消化管のなかで土壌と十分混ざりあい、粘土鉱物と結合します。糞として排泄された窒素は、微生物の活動によってアンモニア態から硝酸態に変化します。このうちの一部はガスとなって大気に戻りますが、硝酸態窒素は植物に利用されやすい。一方、糞のなかの炭素は土壌に塗り込められているので、酸

素が供給されにくい糞内部にあり分解が抑制される。植物の側から見ると、必要な栄養塩はめぐり、植物にとって大気から簡単に得られる炭素は土壌に蓄積されるわけで、生育にプラスに働くことになる。大気の二酸化炭素を土壌に溜めるという点で、緑の地球は、茶色の土壌が支えていると言ってもよいと思います。

土壌動物が引き出す土の働き
 土壌が機能するには、土壌中に微生物だけでなく、土壌動物も含んださまざまな生物グループ(機能群)が揃い、たがいにゆるやかな共生関係を保っていることが重要です。単なる種の多様性(種数)ではなく、このような生物グループ(機能群)の多様性に注目することが必要だと思われます。

 近年、微生物の顔ぶれは世界中の土壌で驚くほど似ていることが分かってきました。それに対して土壌動物は環境の影響を受けやすく、場所ごとに顔ぶれが大きく異なっています。それゆえ、微生物の活動への影響も場所によって異なり、土壌機能も異なってきます。人間の開発によって土壌動物がいなくなり、炭素貯留の働きを失った農地はその一例を示しています。
 農業の開始いらい、人間がある意味、ひどい扱いをしてきた土壌が依然として働いてくれるしくみの基盤には、土壌生物の多様性があります。土壌の働きは多様な生物によって引き出されているという意味で、土はやはり「生きている」のです。