vol.188 水の特集 水道民営化って?

Part-3
水道民営化って?
水道民営化について、長良川市民学習会の武藤仁さんに詳しくお話をうかがいました。

武藤さんは長良川水系をもまるため、いろいろな活動をされています。その中で大切にしているのは以下の2点だそう。
・わが町の水を「おまかせ」にしない。
・ 命の水を後の世代につなぐ。

水道民営化に反対・賛成と言う前に、今の自分たちの飲み水がどうなっているか知ることが大事です。それによって、「民営化がいいのか、従来通りがいいのか、その他もあるのか」の選択が変わってきます。
憲法25条(生存権)に基づいて、水道法の第一条には、「清浄、豊富、低廉」と言う飲み水の最低限の条件が書いてあります。水がきれいなことは当然だけど、しょっちゅう断水するようではいけないし、高くて貧乏人が飲めないようでは、命の水として失格です。そういう意味では、水道法は今まで守られてきた。水道は国がきちんと守っていかなければいかん、国にその義務があったということですね。

水道法の水道事業というのは
水道法の改正では、「水道を計画的に整備し、および水道事業を保護育成する」この文章が削られ「水道の基盤整備を強化する」に変わっています。
水道行政の最高責任者、厚生労働大臣が基盤を強化するための基本的な方針を定め、都道府県がそれをもとに基盤強化計画を作り各市町村で広域関係推進協議会を作ってやっていきなさい、というものです。そして「で、あなたのところの自治体はどうする?」となリます。この段階になると、県や市町村の議会も、もちろん市民も意見を出すところがなくなってきます。いわゆる、有識者と水道関係の職員、官僚だけで決まっていきます。結局、今度の水道法改正というのは、各自治体が考えて行ってきたことを、広域連携という名のもとに、国から大規模にやりなさい、とトップダウンで命令が下りて来るようになる、ということです。
わかりやすくいうと、人口密度の低い地域の小さな水道事業は水道料金だけ(独立採算)では経営できません。今まで一般会計や国の補助金でやってきました。ところが国はもう金は出したくない。そこで例えば岐阜、各務原、関…の水道事業を広域に合併しスケールメリットを生かして基盤整備をしなさいというのが国の狙いです。けれど、ほとんどの市町村は自分たちでやっていくという思いがあるから、なかなかそれが進まない。だから、水道法という法律を変えたい、というのが今回の水道法改正の狙いの一つです。そして、二つ目の狙いは水道事業の民営化です。

では民営化とはどういうものか。
水道というのは市町村が自分たちでプランを立てて経営する、というのが日本の水道事業の原則でした。ところが、フランスを中心として世界的に「水メジャー(上下水道事業を扱う国際的な巨大企業)」が水道を支配したいという思惑があります。安倍さんや麻生さんは、それに合わせ日本の門戸を開きたい、市場開放しましょう、と高らかに公言しました。(2013年)
ですが、水道事業を今すぐ民営化にすると国民から猛反発を食らうことはわかっていますので、官民連携PPP(Public Private Partnership)の名で政策を進めています。官民連携には、PFI(Private Finance Initiative・民間の資金や経営手法・技術力を活用して公共施設などの社会資本を整備すること)があります。例えばゴミ焼却場の建設はとてもお金がかかるから、民間の資金で、設計してもらって、建設も、運営もしてもらうもの等があります。PFIは病院建設やその運営など、いわゆるハコモノを中心に進んでいます。

PFIはこれから行政用語でどんどん出てくるでしょう。
第2次安倍政権になり、PFIをもっとやりやすくしていこうと、コンセッション方式を進めています。これは、例えば市町村の水道の施設や配管などは自治体の財産のままですが、運営権を売って、20〜30年間、企業に任せるやり方のこと。安倍さんは「これは民営化ではない。皆さんの水道局がどっかの企業になるわけじゃありません。」と和らげるようなことを言っていますが、30年も経ったら市の職員だって入れ替わりもあるし、どこにどういう管が埋まっているのかなど、いろんなことがわからなくなってしまいます。
また「この水道事業はおかしいんじゃない?」と市民や、議会が民間企業に文句を言ったって、「それは企業秘密です」で済まされちゃう。水道のことは市民も議会も追求できない、そういう恐ろしさがあるんです。にも関わらず、国は「水道管が老朽化して、大地震が来たらどうするのか。民間の金を借りて任せないと、今の役所では対応しきれないよ」という理由で民営化を進めています。さらに「基盤強化は今の役所は貧乏だからできないだろう」と。だから民営化しようということです。だけどこれはまやかしで、住民と行政がきちんと工夫すればできることなんです。

そもそも水道事業にコンセッション方式導入はどうなの?
いままでは住民は自治体に料金を払い、自治体が下請け会社と委託・請負契約をしても、何か問題があれば住民は自治体に文句を言えば良かった。しかし、コンセッション方式になると、自治体がSPC(Special Purpose Company・特別目的会社。ヴェオリアとか外資系企業も入いる)という会社に運営権を移しちゃうわけだから、市民は水道料金をここに払う。しかも運営権は20〜30年契約です。そうでないと企業側にメリットがないですからね。
災害の時にどうなるかというのがすごく怖いです。僕が名古屋市上下水道局にいたときは、災害が起きたら、横浜とか、京都に助けてもらうとか、役所どうし公と公の連携や約束をしていた。だけど民間になるとそういう信頼関係はないし「想定外の災害だ!」「損害を受けた賠償せよ!」と、逆に市役所が法外な請求をされるかもしれない。水道施設が大きな被害を受けると手に負えないので撤退する可能性もあるんです。
コンセッション方式導入に対して、大阪市議会では2回否決、奈良市議会も否決。これからは自治体でこういう機運を作っていく必要がありますね。要するに市長が民営化しませんとはっきり言えばいいんです。それだけのこと。僕らも早速岐阜市で「命の水を考える会」を立ち上げ、上下水道事業部を訪れ「民営化」についての考え方と施策を聞きました。今のところ岐阜市長も記者会見で「コンセッション方式を導入することはしません」と言い切っています。

で、民営化になるとどうなるか
水は市民のものではなくなる。繰り返しますが、議会の声ももう届かないようになる。民間企業だから、情報の資料提供も期待できません。企業も全ての業務はできませんから、結局下請け、孫請けがやることになるのですが、その際、どこと契約したか民民契約だから、そんなことは議会も市民もチェックできなくなります。そして大手の息のかかった一部の特定の業者に工事を任せる…、そうすると利権がらみが蔓延するという可能性が出てきます。民営化のメリットは何もないと、僕は思っています。

市民や自治体がスクラムを組んで対応。
国は自治体に対して「財政力がないのに市民の未来を担えるのか」と、指導という圧力をかけてきます。その時に「市民とともに考えて、こういう政策でやっていきます!」と、突っぱねられればいい。それには市民と自治体の認識が一致して団結してないとね。「水道事業は、原則として市町村が経営するもの」という水道法第6条は生きています。
僕らは一つ一つ拾い上げ、役所に対して、「これどうなってますか?」って聞いていくしかない。役所だって民間に明け渡すとか、仕事をいい加減にやろうとは、だれも思ってないはずです。官民連携という名で、一部の人が潤うという仕組み、その構図は見え見えです。でもね、それを跳ね返していくのは、市民の力しかないんです。
各務原市はまだ、データだけ見ていると頑張ってるんじゃないかなと思いますよ。しかも、100%地下水を水源としているんですよね。かつて各務原市で、ニンジン畑の化学肥料による地下水汚染が発覚した時、市民・研究者・市役所が連携して水道水源を守ったと聞いています。水に関して敏感だったんですね。その勢いで万が一民営化の話が来たら住民どうし団結して、行政としっかり協議した方がいいと思います。

長良川市民学習会は、2007年12月、「徳山ダムの水を長良川に流す」木曽川水系連絡導水路計画に驚き、「長良川に徳山ダムの水はいらない!」と声をあげた市民の集まりです。会を結成後、長良川の環境にかかわる市民学習会の開催、調査活動、関係機関への要請行動などを重ね活動を広げています。
代表:粕谷 志郎 岐阜大学名誉教授 事務局長:武藤 仁
(連絡先)500-8211 岐阜市日野東7-11-1 TEL 090-1284-1298

UP TO THE LAST DROP
『最後の一滴まで』
ヨーロッパの隠された水戦争
水道サービスのあり方を問うドキュメンタリー映画
「民営化の是非だけの問題でなく、持続可能な地域、公共サービスのあり方、住民自治の実践という観点から、私たちは対案を出していく必要があるでしょう。この映画がその議論の一助となることを願っています。」
ドキュメンタリー映画の翻訳プロジェクトのHPでは、こう締めくくっていました。

ヨーロッパの国が水道民営化で揺れている。4年に及ぶ取材。制作期間を経て2018年にギリシャで公開されたそうです。フランス、ドイツ、ギリシャ、ポルトガル、イタリア、アイルランドの6ヵ国・13都市を綿密に取材し、自治体議員や、市長、研究者、NGO、アクティビスト、そして民営化を推進する企業へのインタビューまで、多用な登場人物が発言していきます。特に印象的だったのが、アイルランドの一人の若い女性の取った行動。債務危機を抱え民営化を余儀なくされ住民の敷地外に水道メーター設置をはじめるのですが、路上でメーター設置に抵抗するスタンディングをはじめたシーン。アイルランドはもともと水道メーターはなく、OECD諸国で唯一、「水の貧乏の人がゼロ」という実績を誇っていた国だったんです。で、その女性の行動に触発され、地域の住民がひとり、ふたりと徐々に増え、その輪は次第に全国に広がっていくという展開シーンでした。
さて、私たちはどうでしょう。行政が決めたこと、民主主義で決めたことだから、とあきらめムードになってないでしょうか?
私のキーワードは「持続可能」。それが可能か否かで判断したい。水道民営化、人ごとじゃないないですから。(み)

こんなふうに、図解があるとわかりやすい!

民間企業に運営を任せる・・・第3セクターで各務原市の学童保育も民間企業のシダックスになったね。

 

 

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