vol.175 天然のくらし応援団 第11回

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つり下げ式殺虫剤の問題

私はマンションに暮らしていますが、近年、近隣で吊り下げ型の殺虫剤や香りの強い柔軟剤が使われるようになり、それが窓や換気口から室内に入ってきて呼吸困難やふらつき、頭痛などの症状が現れ、苦しんでいます。私が過敏症で苦しんでいる事を伝えて、吊り下げ型の殺虫剤や柔軟剤を使用しない様にお願いして廻っています。(60代男性)

つり下げ式殺虫剤(または「虫よけ商品」)が近くにつるしてあり、困ったというメールを、「にらめっこ」の記事「香料について」を読んだ方から頂きました。私はそのような殺虫剤が広く使われているなら問題です。それで今回はつり下げ式殺虫剤を考えます。

つり下げ式殺虫剤は役にたつの?
つり下げ式殺虫剤が最近宣伝されているのを見ます。害虫を殺すために、普通、殺虫剤は大量に散布される。しかし、つり下げ式殺虫剤のように、徐々に蒸発して嫌な蚊やハエなどを殺す殺虫剤はあるのでしょうか?あれば相当強力なものでしょう。
つり下げ式「いやな虫を寄せ付けない」(アース製薬)や「いやな虫をシャットアウト」(興和)、「イヤな虫の屋内への侵入を防ぐ」(大日本除虫菊)、「虫よけバリア」(フマキラー)などが販売されていました。しかし、これらのつり下げ式殺虫剤はユスリカとチョウバエにしか有効ではありませんでした。日本にいるこれらの昆虫類は血を吸いません。

消費者庁の措置命令
この問題について、消費者庁は「4社が行った...表示は、対象商品の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者へ周知徹底すること」という措置命令を出しました(2015年2月20日)。措置命令とは、商品の品質や値段について実際よりも優れている、または安価であると消費者が誤解するような不当表示などをした業者に、消費者庁がその行為の撤回、再発の防止を命じる行政処分です。要するにあまり効果がないものを、他の虫(蚊など)にも効果があると思わせようとするもの、つまり詐欺に似ているとしました。

今のつり下げ式殺虫剤は?
現在販売されている主な虫よけ商品の有効成分はDDVPかメトフルトリンです。これらの殺虫剤は安全でしょうか。

DDVPはヒトに対する発がん性が疑われる
DDVP(ジクロルボス)は有機リン系殺虫剤です。有機リン剤には毒性が強いものが多い。2008年1月末の中国製ギョウザ中毒事件はギョーザに混入されたメタミドホスという有機リン剤の中毒でした。DDVPはメタミドホスほど強い毒ではありません。しかし、国際がん研究機関IARCはDDVPを「ヒトに対する発がん性が疑われる化学物質」(グループ2B)に分類しています。このようなものを他人に影響する場所につり下げて良いのでしょうか?

ピレスロイドはホルモンかく乱物質
メトフルトリンは除虫菊中の殺虫成分に似た合成化学物質、ピレスロイド系の殺虫剤です。この殺虫剤はあまり研究されていません。研究が少なく毒性がよく分からないということは、安全だという意味ではありません。「何が起こるか分からない」のです。
東京都健康安全研究センターによると、多くのピレスロイド系殺虫剤はエストロゲンのような性質を持ちます。また、1980年代初頭、米国でハイチからの難民にピレスロイド系のシラミ駆除剤を使った所、女性化乳房が多く現れたことが知られています。2003年の研究は、女性化乳房の原因をシラミ駆除剤に入っていたピレスロイド剤が男性ホルモン(アンドロゲン)の働きを妨害したためであると報告しています。女性化乳房とは男性の乳房が女性の乳房のようになることです。

総合防除
蚊などが多い場合、どうすれば良いでしょうか?害虫の防除のために、化学物質に依存するのは環境や人間の健康に良くないため、農水省や厚労省はIPMを勧めています。IPMとは一般に総合防除といいますが、農水省では「総合的病害虫・雑草管理」、厚労省では「総合的有害生物管理」という言葉を使っています。総合防除は害虫の侵入を防止し、繁殖がしにくい環境を作り、それでも害虫が多い場合にのみ、人間や環境に安全で駆除に有効な殺虫剤を使います。

具体的には
総合防除は特異な方法ではなく、蚊などの害虫の侵入を防ぐために網戸や蚊帳を使ったり、発生源対策として、わずかな水たまりでもなくすように空き缶やバケツなどを放置せずに整理する、植木鉢の受け皿に水をためないなどを先ず行います。これらの対策はデング熱やジカ熱のような蚊媒介感染症対策として国が勧めています。

殺虫剤使用
殺虫剤使用は環境と人間の健康に有害です。そのため他の方法で防げない場合の最終的選択肢となります。最も毒性が低い殺虫剤、例えばボウフラ駆除剤を使用します。殺虫剤を使う場合、その旨を近隣の人々に伝え、できれば合意を得た方が良いと思います。今年、農薬などを使用することを伝えなかったり、薬剤を説明せずに配布して健康に害を与えた場合は、賠償すべきだという判決が、佐賀地裁と広島地裁とから出ています。

わたなべかずお:福島県生まれ。新潟大学卒。浜松医科大学勤務(脳研究と教育に従事)医学博士、各務原ワークショップ主宰(毎月第4木曜日13:00〜渡部宅(各務原市蘇原東栄町)主に健康と環境に関することの勉強会)参加希望者はbandaikw@sala.dti.ne.jpまで