公共放送にのぞむもの
岐阜市文化センター内の喫茶店・ベリーファームで、先日「きょうの料理・NHKのピリ辛ソース炒め」という楽しいトークショーが開かれました。元NHK記者・太田維久さん、元岐阜新聞記者・高橋恒美さん、元メ~テレの野原仁・岐阜大学教授、それに『にらめっこ』三上編集長という豪華メンバーで、私が司会。グルメ講習会ではなく、最近“政府寄りのニュースが目立つ” “人気の国谷キャスターをなぜ外したのか”などと、何かとギモンが多いNHKのニュースを料理してみようという趣旨。お店の自慢料理やワインもいただきながら、満席の参加者たちが口々に、最近の報道への感想や批評を繰り広げました。NHKのみならずマスコミの政府への忖度や自粛の風潮、選挙報道の減少、議論を避ける傾向、高校での政治教育の制限、メディア教育やネットワークの大切さなど意見は多方面に及び、果たしてNHKは必要か?との究極の疑問も出て、熱気ムンムンの中で時間切れに。
今丁度、そのNHK会長の選任の時期です。籾井勝人会長は、おととし1月の就任会見でいきなり「政府が右ということを(NHKが)左ということはできない」「従軍慰安婦はどこにでもあった」と発言したり、この4月の熊本地震関連の原発報道で、「当局の公式見解を伝えるべきだ。いろいろな専門家の見解はいたずらに不安をかき立てるだけだ」と指示するなど、問題になってきました。NHKは日本の基幹的な公共放送局なのに、そのニュースが政府発表に偏っていては、国民が正しい判断をできないわけです。戦時中の一方的な「大本営発表」が日本を破滅に導いた苦い経験をふまえ、現在の放送法第3条は、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定め、また第4条でも「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」としています。さまざまな観点から報道する「公正・公平な報道」は、民主主義を掲げる国々のジャーナリズムに共通の考え方です。
NHKの会長は経営委員会が決めますが、経営委員を任命するのは首相です。その候補者は、政治家や財界人、総務省の官僚たちのブラックボックスの中にあります。アメリカの多くの公共放送の経営委員は、立候補と選挙で選ばれますが、NHKの役員も受信料を負担する視聴者・市民が参加できる「透明なプロセスと明確なルール」で選ばれるべきでしょう。岐阜からも会長希望者が立候補すれば、NHKも少しは身近になってくるのでは?
『ドキュメント「みなさまのNHK」』
津田正夫・著 (現代書館 2,200円+税)
「内なる権力」にあらがい振り回されながらも、報道のあり方を追求してきた著者。時系列で1人称で綴られるその内容はNHKの体質を浮き彫りにしている。読書中何度も「NHKよ、お前もか」と思うと同時に第三部「市民が紡ぐもうひとつの公共放送」に希望を見いだせる。メディアで発信する側、受ける側、両サイドの人に読んでもらいたい一冊。
つだまさお・プロファイル
1943年金沢市生まれ。京都大学卒業後1966年~1995年NHK(福井・岐阜・名古屋・東京)で報道番組の制作・開発に従事する。その後東邦学園短大、立命館大学でメディアやジャーナリズムの在り方を教えたり、全国の市民メディアをつなぐ仕事に携わる。ぎふメディアコスモスの中から発信する市民による市民のための放送局「てにておラジオ」代表。