NY貧乏Nuseものがたり part -6
まいまいの看護師見習い奮戦記 ~From Newyork~
あるコロンビア人のおじいちゃんの話
病室にいくと見覚えのある顔に出会えた。たしか過去に何度もホスピス病棟に入退院を繰り返してたあの人だ。おくさんは英語がほとんどしゃべれない スペイン語のみ・・・
彼は私にイスラム教のChaplainを呼んでほしいと頼んできた。(病院にスピリチュアルケアのサービスがあって、リクエストさえすれば自分の宗教・またはどの宗教でもお祈りできるようトレーニングされた人がきてくれます)
彼、どうみてもラテンの顔でスペイン語が母国語なのに、イスラム???この辺のラテンアメリカの人はほとんどがカソリックだからびっくりした。そしたら、おじいちゃんはゆっくり話してくれた。
自分はムスリムで38年前に改宗したんだ。自分は一日に5回お祈りもするし、アラビア語でコーランを読む。家族も妻もみんなカソリックだけど、私はムスリムです。でも自分は他の宗教もリスペクトしていて、妻もモスクについてきたり、自分も妻のチャーチのミサにいったりもする。お互いに尊敬しあいさえすれば、何の問題もない。それぞれの宗教はそれぞれに美しい。うちはふと、みんながこんなふうに考えられたら紛争も戦争も生まれなかったやろうか・・と思った。
彼は、私の宗教についてもきいてきた。死んだらどうなると思う?天国と地獄はあるか?この世とあの世をどう考えるか?お線香はなんで焚くのか?お坊さんはなんでお輪を鳴らすのか?あの袈裟の色にはどんな意味があるのか?とまぁ、仏教徒とこたえたものの私が知らないことまでいっぱいいっぱいきいてきた。自分のあやふやな宗教観と、知らないことばっかりでちょっと恥ずかしくなっちゃった。でも、自分の知っている範囲で、信じることと、日本の文化を織り交ぜて話した。おじいちゃんはとても興味深そうにきいてくれて、最後に、美しいねって。
最後におじいちゃんは、私はね、死んだらムスリムとして土葬してもらいたいんだ。カソリックとしてお葬式はあげてほしくないし、火葬されるのも嫌だ。イスラムに従って一人のムスリムとして土に埋めてほしい。でも、貯めておいた8万円では、土葬もできないとわかって途方にくれたよ。そしたら、ホスピス訪問看護師の一人、モハメドさんが自分の希望をきいて、モスクやイスラム教の団体に連絡してくれた。そしたら、2つもの場所から連絡がきて、希望どおり土葬をしてくれることになったんだよ。
私はうれしくてね。やっぱりアラーはみていてくれてるんだね。アラーに感謝したよ。当然土葬の日には、私の家族は私の意志を尊重して、モスクでもイスラムを軽蔑することなくしきたりに従ってほしい。私はそれを願っている。それは全部家族に伝えてあるし、葬式などの手配も全部整っている。あとはもう待つだけだよって。
こんなケースはあんまりない。自分も周りも旅立つ準備ができていて、自分の希望や意志が周りにも伝わっていて、きっとそのとおりに実行されると思う。それは彼が家族や周りの人間に対して築いてきた人間関係の上に成り立っているものでもあって、またそれがかなえられる状況があったからこそ成り立ったものでもある。
もし病気が脳や意識障害をもたらしていたら、難しかったかもしれないし、アメリカじゃなかったらできなかったことかもしれない。生前から家族や親戚に自分がどういう人生を歩んでどういう最期を迎えたいかを伝えることは大切なことで、縁起でもないことを・・ってめんどうくさがらず、死も人生の一部であることを認識して話せるといいなぁ。
プロフィール
まいまい
ニューヨークの片隅在住。2010年6月に看護師国家試験取得。不況のあおりで就職難民・・・そんな日々の中で感じたこと、気づいたことを現地からお届けさせていただきます。