同じことをやってても
「放ったらかし」っていわれたり
「世話やきすぎ」っていわれたり
「自立」のためには
どっちがいいの?
出したその手を
またひっこめる
「しなくていいよ」もひとつの方法・・・郡司修一
少子化の影響で、一人の子どもをお世話する大人の手は確実に増えています。子どもに「〜しなさい」という要求行為やかわって「してあげる」代役行為は、もはや子どもにとって飽和状態なのです。「してもらう」ことへの慣れは自立性を確実にむしばみ、あげくのはてに「親に依存しながら親を否定する」ことに行く場合もあります。「お母さんが○○をしろといわなかったから」などと、他人まかせの姿勢になってしまうこともあります。
そこで私は、「しなくていいよ」というアプローチをおすすめしたいと思います。つまり、大人がこれまで「してほしい」と思っていた宿題。かたづけ、持ち物チェックなど「しなくていいよ」と通達するのです。子どもにとって。これは新鮮ですよ。
これは罰則ではなく、一種の渇望感を味わわせることが目的なのですから、「もうやらなくていい!」と怒るのではなく、笑顔で、あたりまえに伝えてみてください。「いまのあなたに必要ないようだから、やらなくていいよ。もう少し大人になると、もしかしてやりたくなるかもね」程度でいいのです。でも中途半端なことはしません。問題が整理整とんなら、徹底的にかたづけさせません。
こうすることで渇望感や飢餓状態をつくりだし、子どもの心に根ざす「必要感」をはっきり意識できるようになる場合もあります。子どものほうから「もう、かたづけたい」などといいだしたらしめたもの。「いいところに気がついたね」とか、「ちょっと立派な考えだね」などと認めつつ、「どうしてしたくなったの?」と理由を聞いて、子どもなりの考えを整理してあげるといいですね。
でもこのアプローチ、しょっちゅうだと効果は薄いです。子どもの年齢や性格、そして「ほんとうにこれをしてほしいかどうか?」を考えて、ここぞというときにどうぞ。また、宿題の場合は担任の先生の協力も必要です。「しばらく荒療治をしてみますので、よろしくお願いします」と連絡して、意識を共有できる担任だといいのですが。
学校では子どもが出来るだけ困らないようにと思うのが親心。でも、失敗の過剰な回避は、子どもの自立性をマヒさせていきます。忘れものをしたとき、なんでもいつでも届ける親は「下僕」化していきます。残念ながら、親のやさしさよりは「都合のよさ」のほうが強く伝わり、浸透してしまうのですね。
一方、「忘れ物をしても届けないよ」と宣言している家庭には一種の緊張感があり、子ども自身で「なんとかしなきゃ」と考えるようになります。失敗を味わわせ、そこから子どもなりの知恵や対処を学んでほしいという配慮ですね。ただし、「これがないと今日は大変!」というときには、やはり助けてあげたい。「してあげること」と「してあげないこと」のバランスとタイミングが大切です。
また、子どもの成長段階や性格をよく考え、探りながらためすことも必要です。とくに、小学校四年生ごろの思春期の入口からは慎重に。この時期に育ちつつある子どものプライドを最大限に気づかう必要があるでしょう。「親の思うようには困ってくれない!」ということもあるでしょう。でもそこから、わが子の持ち味を再認識でき、次なる「手出し」の方向が見えてくるかもしれません。
郡司修一/ぐんじ・しゅういち
(福島県の市立小学校教員 共著に『がっこう百科』)
「母ちゃん劇場」・・・山本ふみこ
手を出しすぎるか、ぜんぜん出さないか??これは、たいした問題じゃないと、わたしは思うんです。それは、母ちゃん(あるいは父ちゃん)の性質によるところだし、出しすぎる、出さなすぎる、ということは、それぞれ反省しているところだろうし。
大事なのは、ちゃんと見せるということだと思います。子どもにしてもらいたいことをして見せる。こんなふうなやり方がおすすめよ、というやり方を見せる、ということです。
ナイフでえんぴつを削る、食卓を台布巾で力を入れて拭く、本を大事にする、ノートは最後まで使う、パンツや靴下はこうたたむ、上着にブラシをかける、洗濯物を干す棹をきゅっと拭く、箒とはたきを使う…。これらすべてが「母ちゃん劇場」です。
わたしは毎日、主役をつとめています。子どもは見ています—。見ていて、すぐ真似してくれるとうれしいんですが、ま、だいたいは見てるだけ。
そうして自分が独立したとき、そっくりそのまんまのことをしてみるはずです。もっと合理的なやり方を発見したり、わたしたちがインチキして踏み外していたやり方を正道に戻したりすることもあるかもしれません。どちらにしても、そのときは、わたしたちにはあまり関わりのない話です。ちょっとつまらないですね。「ああ、見ていてくれたんだなぁ」としみじみする日をたのしみに、「母ちゃん劇場」の看板女優として、がんばりましょ。ちゃんちゃん。
山本ふみ子/やまもとふみこ
(エッセイスト・著書に「元気が出るふだんのごはん」(講談社文庫)「子どもと食べる毎日のごはん」(岩崎書店)「親がしてやれることなんて、ほんの少し」「人づきあいの練習帖」(オレンジページ)など。)
抜粋
にらめっこのバイブル:こども・きょういく・がっこうBOOK『おそい・はやい・たかい・ひくい』N0.31より抜粋