小林:確かに差はあります。しかしたいてい一年も経たないうちにその差はなくなりますね。
岡崎:いま小学校でやろうとしている英語教育はゲームとか音楽を通して「まず親しもう」というものでしょう。
小林:基本はまず単語を覚え、文法をきちんと学ぶことにある。それはたいへんだし努力もいる。英語=楽しいという感覚だけでいると、そのギャップに戸惑うことになりかねない。
英会話、ピンとこない子どもたち
小林:英語が苦手で「必要ない」と開き直る子もいます。日常生活で英会話する機会なんて少ない。だから、会話ばかり英語学習の目的として掲げても…
岡崎:僕は名古屋港近くのまちで育ったので、アメリカ人によく声をかけられた。学校で習った「ジャック&ベティー」の会話のフレーズ、あんまり役にたたなかったなぁ。
小林:学校で教える英語は、文法とか単語も含めて、言語そのものをきっちり教えることが大切。基礎ができていれば、実際に英語を使う必要が出てきたときには必ず役に立つ。日本語とは異なる言葉の仕組みを学ぶおもしろさも、わかってもらいたい。
ローマ字で楽になる
岡崎:英語教育の背景には
「国際化」という圧力がありますよね。
小林:国際理解を深めるためだったら、図書館で日本語の本を読んだ方が効果があると思う。生活の場で見かける外国人といえば、ブラジル人だったり、アジアのさまざまな国から来た人たちで、英語を母国語としない人が大多数を占めるわけですから。
岡崎:2011年から国公立の小学校5、6年生で英語教育が必修化に。日本の英語教育が変わり始めています。
小林:あれこれ欲ばらずに、せめてローマ字をきちんと教えといてくれたら、と思います。Aがア、B がブ、Pがプに結びつくといった音声面をきちんと理解させておくだけで、中学校での英語導入がすごく楽になります。
こばやしせいじ/春日井市立中学校教員 おかざきまさる/お・は編集委員
外国人とは目を合わせない(笑)
-山田さんは翻訳のお仕事もされていますよね。読むことはできるのに、ほんとうにしゃべれないのですか?たしか東大医学部卒。英語の勉強もそうとうされたでしょう?
当時、受験英語のバイブル「赤尾の豆単」というのがあってね。6941語、しっかりクリアしましたよ。コンサイスの辞書だってちぎって食べたからね。高級な文法なんかも覚えた。それでも英会話ができない。しゃべれないというより、聞きとれないんだな。それがネックになっているんだと思う。
それと大学時代の経験がトラウマになっているかもしれない。同郷の友人が一橋大学でESSクラブに入っていて、彼は英語がしゃべりたくてしょうがなかったわけ。下宿先の沿線にアメリカンスクールがあって、あるとき外国人が乗ってきたんだ。チャンス到来とばかりに彼が流暢に話しかけたら、すっごいスピードで話し返してきた。ぜんぜん聞きとれない!彼はまっ赤になってうつむいちゃうし、隣に座っていたぼくも困っちゃったよ。
英語の原書を電車の中で読んだこともあったんだけど、それ以来、外国人が電車に乗りこんできたら大急ぎで本をカバンにしまう癖がついた(笑)。難しそうな原書を読んでいるんだからと、話しかけられたら一大事だよ。
-ずいぶんアンバランスな英語力ですね。
英語学者の中にもアンバランスでいいという人はいるよね。つれあいは積極的な人で、ちゃんと英会話をモノにしたんだけど、彼女いわく受験英語がまったく役に立たないわけではないといっていた。やっぱり理解は早いって。要は外国人慣れ、英語慣れしていないんだ。ぼく個人でいえば「しゃべれません」ってカミングアウトしちゃえばいいんだろうけど。なまじ英語が読めるだけにその落差は大きい。いまだに英語を話しそうな外国人には近づかない、目を合わせないようにしているんだから。(爆笑)。
ぼくの経験からいえば、知識より環境だな。小学校から教えるより、英語を日常的に使う環境、たとえばいろいろな国籍の子がいっしょに学ぶとかいう発想のほうがいいんじゃないかな。
山田 真(小児科医、「ち・お」編集委員)