vol.224 夢か悪夢かリニアが通る! vol.53

 埼玉県八潮市で1月28日、県道が陥没しトラックが転落しました。原因は直径約4.7メートルの下水道管の破損とみられています。1週間たっても男性運転手の行方は分からないまま。約120万人を対象とした下水道の利用自粛も続いています。リニア中央新幹線のうち首都圏や愛知県の住宅地の大深度地下で掘削が進むシールドトンネルの直径は約14メートル、今回の下水道管の約3倍です。朝日新聞「天声人語」(1月30日付)は今回の事故を受けて以下のように記しました。「私たちの当たり前の現実が、揺らいでいる。この国の暮らしを支える土台とは、それほどにもろく、危ういものだったか。自分の立つ足元が、急に消えてしまうことを想像する。怖い」                                井澤宏明・ジャーナリスト

「妙案」なく進む沈下

さらに沈下、低下の見通し
岐阜県瑞浪市大湫町でリニア地下トンネル工事の湧水による水枯れや水位低下が昨年2月に発生してから約1年。JR東海は今年1月になってようやく、地盤沈下もリニア工事が原因だと認めました。沈下は昨年5月末の観測開始から最もひどいところで8.4センチ(1月30日時点)まで進んでしまいました。
1月18日には、昨年6月から半年ぶりにJR東海による住民説明会が開かれました。例によって報道陣には非公開でしたが、翌日の新聞報道によると、マスコミ対象の記者会見が説明会後、多治見市のJR東海事務所で開かれたようです。
説明会の配布資料によると、地盤沈下について「今後、時間をかけて、数センチ以上の低下が生じる可能性」、地下水位低下については「今後5メートル程度は低下する可能性」があるという見通しが示されました。
水枯れや地盤沈下の原因となるトンネル湧水を減らしたり止めたりする対策としてJR東海が打ち出した「薬液注入」。この連載51回目にも書きましたが、「唯一の成功した事例」として同社が示していた「北薩トンネル」(鹿児島県)で昨年7月、内壁が崩落して土砂や湧水が流入する事故が起きてしまいました。
今回の説明資料では「本注入(薬液注入)により水位回復をさせた場合(中略)将来的にトンネルが損傷するリスクがあります」「それにより、湧水とともにトンネル内に土砂が流入し、トンネル上部の地上面の陥没が懸念されます。また、開業後の安全が損なわれることに繋がる可能性もあります」と、「薬液注入」できない理由が並んでいます。

「代替案」に市長苦言
1月22日に開かれた岐阜県環境影響評価審査会地盤委員会でも、委員長の神谷浩二・岐阜大教授から「(地盤)沈下について対策として何かお考えになっていることは」と尋ねられたJR東海の担当者が「今のところ、沈下を止める『妙案』はない」(語尾がハッキリ聞き取れませんでしたが、否定していることだけは分かりました)と力なく答える場面がありました。
その後も対策として「現時点でお示しするものはない」という回答を繰り返したため、神谷委員長は「あきらめのような雰囲気が感じられてしまう。本注入(薬液注入)ができなかったら、それで『おしまい』とならないよう以前から申し上げてきた」と、JR東海に知恵を絞るよう求めました。
JR東海からは新たに「代替水源」やトンネル湧水の「ポンプアップ」、「遮水壁」(「現実的ではないと考える」という説明付き)の3案が示されましたが、出席した瑞浪市の水野光二市長は「大湫町の住民は地盤沈下と水位低下の問題が解決できない限り工事の再開は(認められない)という強い思いだ」と改めて念を押したうえで、ポンプアップや遮水壁案について「そんな程度の代替案しか出てこないのかな。国を挙げて問題解決に取り組まないと、案が出てこないのかなという思いです」と苦言を呈しました。
会合後、JR東海に尋ねました。「地盤沈下と水位低下は進むけど、代替水源で我慢してほしいというのがJR東海の考え方ですか」。これに対して担当者は「まずは水利用をご不安のないようにしたいというのが我々の考えで、代替案として代替水源、トンネル湧水(ポンプアップ)案っていうのをお示ししている」。
未だ解決の兆しは見えません。