リニア中央新幹線の「関東車両基地」の工事説明会が11月15、16の両日、神奈川県相模原市緑区の鳥屋地区で開かれました。鳥屋地区は、標高1000メートルを超える峰々が連なる丹沢山地の山あいにある閑静な集落です。ここに全長約2キロ、幅最大約500メートル、広さ約60ヘクタール、東京ドーム13個分にも及ぶ巨大な車両基地をつくる計画です。(関東車両基地については、連載第5回「真の文化は山を荒らさず」=にらめっこ176号・2017年3、4月、第39回「不都合な『真実』」=同210号・2022年11、12月でも取り上げています) 井澤宏明・ジャーナリスト
集落の真上に巨大車両基地
「環境アセスやり直さない」
住民説明会の対象は例によって「鳥屋地区にお住いの皆様」と関係者。取材はお断りのようです。参加者から説明会の配布資料と録音データを入手したので、それを元に報告します。
まず驚いたのが、この説明会が終了したら、年明けから本格的に工事着手する予定だという点です。会場で以下のようなやりとりがありました。
参加者:この工事説明会後、すぐに工事着手となっている。「環境保全計画」は12月下旬に公表予定だという。きょうの説明だと、一つの空港をつくるぐらいの大工事だと思うが、環境影響評価(環境アセスメント)の時点ではここまでの計画は出ていなかった。環境影響評価をやり直すことになるのか、神奈川県の環境影響評価にかけることになるのか。
JR東海:今回、環境影響評価をやり直すということではない。この工事計画を踏まえて、改めて環境保全計画書を工事が本格的に始まる前に公表させていただく。
つまり、環境保全計画書を公表したら、神奈川県の環境影響評価審査会などのチェックを受けることなく、工事を始めてしまうというのです。さらに、こんなやりとりもありました。
参加者:環境影響評価のときの車両基地の計画は、ただ四角だけだった。だから、環境影響も何も分からなかったと思うが、ようやくここ(公表された計画)から具体的な環境影響が分かるのではないか。
JR東海:評価書上、四角で記載しているが、具体的な形に基づいて予測評価していて、四角の形ですべてを予測評価していない。
「環境影響評価書」資料編(2014年8月)の施設計画に示されている関東車両基地は、長方形の中に施設の概要が記されているだけです。
「自然の摂理に反する」
一方、今回の配布資料によると、車両基地は大きな谷を4つ埋め、4つの沢を暗渠化する、つまり土管の中を流す計画です。これだけ谷を埋め、沢を改変してしまえば、周辺の環境は大きく変わってしまうでしょう。
神奈川県の黒岩祐治知事は2014年3月、「環境影響準備書に対する意見」で、県環境影響評価審査会の審査結果について「車両基地や変電施設等の位置が明確に示されていないため、環境影響が及ぶ範囲が確定していないなど具体性に欠ける」としたうえで、「特に、車両基地は面積が約50ヘクタールと大規模なこと(中略)から、講じようとする環境保全措置等の内容について、住民に対し十分に説明を尽くすこと」などと念を押しています。
黒岩知事の意見書に沿った具体的な計画がようやく公表された今、県のチェックは働くのでしょうか。環境アセスメントを所管する県環境課環境影響審査グループに尋ねてみると担当者は「(車両基地とは)全然違うものをつくるなら話は別だが」と断ったうえで、環境影響評価審査会などを開いて審議する予定はないと明言しました。
JR東海の計画によると、これだけの大規模な盛り土の造成を2027年9月までの約2年半で行ってしまうことになっています。その後の車両基地建設のスケジュールは明らかにされていませんが、環境影響評価書で工期が11年とされていたことから、2035年までかかることになります。
住民説明会直後の11月23日、地元・鳥屋地区の住民団体が開いた講演会で、環境カウンセラーで技術士の桂川雅信さんは「車両基地全体が鳥屋の集落の真上。集落に向かって水が流れてくるところを止めて盛り土をしようということですから、自然の摂理に反すること甚だしい」と計画全体を強く批判しました。