高速道路「東京外郭環状道路」(外環道)の地下トンネル工事により東京都調布市の住宅街で陥没事故が起きてから10月18日で丸3年になります。トンネルルート沿いでは今、「地盤補修」という名の街壊しが進んでいます。住民自慢の閑静な住宅街は更地や空き家が目立つようになり、街全体が工事現場のようになってしまいました。残された住民は今、地盤補修工事の騒音や振動にもおびえる日々を送っています。 井澤 宏明・ジャーナリスト
「地盤補修」という街壊し
公園も工事ヤードに
3年前の陥没事故と続いて次々と見つかった地中の空洞は、地上に影響を与えないことを大前提とした「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度地下使用法)で認可された地下トンネル工事が原因でした。ところが、事故現場の街壊しが進む一方で、外環道工事は再開され、同法で同じように認可されたリニア中央新幹線の大深度地下工事も始まりました。「大前提」が崩れてしまったのにも関わらずです。
秋晴れの10月10日、地盤補修工事の現場を巡る見学学習会が開かれました。主催したのは事故現場の周辺住民とNPO法人「市民科学研究室」で結成した「外環振動・低周波音調査会」です。事業者の東日本高速道路(NEXCO東日本)が行おうとしない住民の健康被害や住宅の損傷被害などの調査を地道に行ってきました。
京王線つつじヶ丘駅を出発した一行は甲州街道(国道20号線)沿いにあるプラントヤードを見学しました。住宅街にセメントを送り込む拠点で、住宅や動物病院と隣り合った敷地に4本のセメントサイロやコンプレッサーが所狭しと置かれ、コンクリートミキサー車が並んでいます。
NEXCO東日本が約2年間かけて行うという地盤補修工事は次のような大規模なものです。
トンネル直上の長さ約220メートル、幅約16メートルの範囲の約30軒の住宅を解体して更地にし、地中にセメントを高圧噴射して土と混ぜ、直径約4メートル、高さ約40メートルの円柱状の塊を約220本作って地盤を強化する。
プラントヤードを出発したセメントスラリーは、甲州街道と京王線の下をくぐり、入間川に蓋をするように敷かれた管を通じて陥没事故の起きた住宅街に至ります。子どもたちの声があふれていた「入間川ぶんぶん公園」は中継ヤードにすっかり形を変えてしまいました。
公園の向いにこの春まで住んでいた近田眞代さんも見学学習会に駆け付けました。夫の太郎さんが育った家を夫婦の退職金で建て替えた窓の多い瀟洒な3階建ては既に解体され、長女の誕生記念に植えた桜の木も今はなく、地盤補修のための工事現場の一画になってしまいました。
周知されない「危険」
案内してくれたメンバーの1人、岡田光生さん(東京都杉並区)によると、ここから地盤補修箇所までセメントが380気圧もの「超高圧」で管を通して送られます。氷山と衝突して111年前、沈んだタイタニック号が眠る水深約3800メートルと同じ水圧がかかるというのですから、「どこかで配管の一部が破裂したときに、そんなのが当たったら我々はモロに死にますよ」と、プラントのエンジニアとして海外でも働いた岡田さんが危機感を感じるのも無理はありません。
現地見学の後、東部公民館で開かれた意見交換会で「市民科学研究室」代表の上田昌文さんは地盤補修工事について警鐘を鳴らしました。
「(NEXCO東日本が)こういう危険な工事を周知していない、自治体が関与しようとしていないのは大変おかしいこと。自治体には住民の安全を守る義務があるので、住民が住む真っただ中で行われる工事ですから、事業者(NEXCO東日本)が対策をとっているかどうかをチェックしなければいけないが、そのあたりが全然、手薄になっているのが日本の公共工事のあり方です」
続けてリニア工事にも言及しました。
「ここを改めていかないと、リニアでも同じこと(事故)が繰り返されるのではないか。自治体への働きかけは今のところ住民の力でするしかないので、早い段階から頑張っておくことが大事です」