レクリエーションをしなくても、自然とのつながりを感じられる子どもは「子ども自身が幸せなだけでなく他人にも優しい」ことが判明したという研究結果が出ているそうです。 これは本紙前号の特集<P-1見えないつながり・自然とつながる私たちの健康『自然欠乏症候群』>と大きく関連しています。この研究では、子どもの健全な発達には自然が必要だとの見方が強まっています。「自然とのつながりは子どもの幸福だけでなく、人に優しくなれる人間性を育む」ことが確かめられました。
子どもに自然と触れ合わせることの重要性が明らかになるにつれて、実際に自然との触れ合いを重視する動きも活発化しています。「子どもたちは、わくわくできて、楽しく自然と接する事ができる生涯学習者のお手本を必要としています。なにも環境科学や自然の専門家である必要はありません。大切なのは、楽しく安全な環境で子どもが好奇心を満たせるように、子どもと一緒の時間を過ごすこと。野外で過ごす時間が少ない子どもにさまざまな問題行動が観察されており、こうした症状は「自然体験不足障害(NDD)」と呼ばれています。
「自然体験不足障害」とは?子どもたちが自然から切り離されることの危険性
「自然体験不足障害」というと、なにか恐ろしい病名のような気がしますが、これは医学的に定義された言葉ではありません。『あなたの子どもには自然が足りない』の著者でありジャーナリストのリチャード・ルーヴ氏が作った言葉です。子どもが自然と切り離されることの危険性や緊急性を伝えるために、このような表現を作り出したのです。
2005年以降、自然体験が人間の発達に与える影響に関する研究が増え、自然から疎外されることが人、特に子どもの心身に深刻な影響を与えていることが明らかになってきています。
自然と過ごす時間が得られない子どもは不安感や抑うつ感を強く持っていたり、注意力や集中力の低下、落ち着きのなさといった注意欠陥障害の傾向があったりすることがわかっています。また、屋外での活動が不足することで肥満になったり、環境の変化に気付きにくい「感覚麻痺」という症状も出てきたりするのです。
自然体験不足障害の原因
都市化により屋外での遊び場が減るだけでなく、車などの交通量も増え、子どもが屋外で楽しむことが難しくなりました。また、テレビやコンピュータなど電子機器が増えたことで、子ども自身が部屋で過ごすほうが楽しいと思うようにもなってきています。それらに加えて、屋外で起こる事故や不審者などによる事件などの報道に影響を受けた親たちが、「外は危険だ」という考えを持つようになり、子どもを屋内で守ろうとし過ぎていることも原因の一つだと指摘しています。
自然体験不足障害の改善策
ルーヴ氏は、「自然体験不足障害」の子どもは、親、学校、地域の努力で救うことができると考えています。
屋外に出て静かな時間を持つだけでも子どもは落ち着きを保てるようになります。芝生や土の上を裸足で歩く、木を触ってみる、小石を拾ってみるという機会を持つだけでも「感覚麻痺」を改善することができます。
学校の校庭や近くの公園で、5分でも10分でもいいからそこにある花や木を観察する。それを季節ごとに繰り返すと、環境の変化にも気づけるようになります。
大がかりなキャンプに行かなくても、一日かけて登山をしなくても、放課後や週末に身近にある自然と触れ合う機会を作ることで「自然体験不足障害」による症状を改善することはできるのです。大切なのは、自然体験が減っていることによって失われているものを恐れるのではなく、身近にある自然環境から得られるものは何かを考え、子どもに自然と触れ合う時間を持たせてあげることなのです。
子どもに自然が必要なワケ
自然との触れ合いが減っている子どもたち。自然そのものの減少で、触れ合う機会を失ったこともありますが、ゲーム等の存在や放課後の自由な時間の減少により、”外で遊ぶこと”への興味を失ったことも、少なからず影響しているのかもしれません。
自然のなかでの遊びは、問題解決能力、集中力、自制心の発達にも役立ちます。また、協調性や柔軟性が向上するため、他人とうまく付き合えるようになり、社会的にも意味のある遊びと言えるのかも。
直接的に自然に触れる機会をつくる
木登りを例に挙げてみましょう。登るのも下りるのも自己責任。どうしたら登れるか、どうしたら落下せずに済むか、どうやって下りるか、という一連の流れを自分の頭で考えなければいけません。こういった体験は、実際に自然と触れ合ってみないとわからず、単に木を眺めて景観を楽しむのと、実際に登ってみるのとでは、子どもにもたらす影響はまったく違ったものになります。
何気なく転がっている石も、落ち葉も、木の枝も、自然の中にあるものは発想力さえあれば、子どもの遊ぶ道具となり、子どもの発育を手助けする道具となり得ます。大人にとっても自然はストレス発散やリラックスの場として大切ですが、子どもにとっても、とても大切な場ということなのです。普段の子どもの遊ぶ時間を、それとなく自然との触れ合いに導いてみてはいかがでしょうか。
参:gigazine/NATURESより