会を立ち上げた小川さんのお話
(環境・みらい・各務原 PFAS汚染と市政を明らかにする会)
基地周囲の土を採取して、2回目の表層部分の土壌調査を計画しています。ぐるっと囲むような感じで、北側、 南側、東側(三ツ池あたり)の土を採取して 土壌調査をやりたい。 最新の PFAS ニュースで、目をひくものが ありました。イタリアがすごい判決を出しました。主婦2人が訴えて、11人が有罪判 決。(イタリアの裁判所は 6 月 26 日、「PFAS」によって北部ベネト州の水質を汚染 した罪で、三菱商事の子会社だったミテニ(2018 年破綻)の元 幹部ら日本人3人を含む11人に対し、禁錮2年8月~17年6 月の有罪判決を言い渡した)市民のパワーを感じました。各務原市では活性炭処理をして暫定基準値を下回っているし、あちこちにポスターが貼ってあるし、安全だよねっていう雰囲 気があります。もう過去の話し?それともう一つ、若い世代からは「そもそも僕ら水買うんですよ」と話されたことがあります。若い子育て世代の人たちは PFASの問題以前から、ウォーターサーバーが当たり前のように家にある世帯も増加しているのでしょうか。家庭では水道水は 直接飲まないっていうことなんです。もちろん全員ではないですよ。私は「そうか!だからPFASの問題が個人個人で気にはなっているものの、大きなうねりになりにくいのだな」と思ったんです。「水道水は飲み水だけじゃなく、料理を作る時、ご飯を炊く時にも使用します。そこまで考え、想像力を働かせることが必要かな・・・」。 そして私は土壌汚染も気になります。「汚染源が分からないまま、10 年後 20 年後もこの状況が続いたら、ずーっと拡散し続けるよ」と伝えています。PFAS の半減期は長く、体内に蓄積もしやすいということをもっとみんなに知って欲しいと感じています。
今尾さんのお話 (PFAS汚染から命の水を守る各務原市民の会)
この3月議会に、市内の小中学校等に浄水器の再設置を求める請願署名を出しました。PFASは完全に除去はできない以上、体内に堆積しつづけ、特にたくさんお水を飲む子どもたちの発育に問題になる。堆積するのは減らしたい。浄水器をつけてくださいと。 12 月に外すと いう情報を得たのでその時も請願を出し一度は設置が継続された。でもまた 50 ng/L を下回ったからと外されてしまった。
汚染源を特定していく調査を進めて欲しいですね。基地が汚染源とは断定できないですが、基地の土壌調査を含め、企業に対しても、PFASの使用状況とか調べて欲しい、と要請し「企業に聞き取り調査をします」と市から返答をもらいました。そしてその結果は新聞に公表されましたけど、小さい記事でした。
会員数は100数十名。規則・会則があり、会員ニュースを届けています。はじめて署名に取り組んだ2月ごろには、会員に署名用紙も届けました。請願とか、署名活動のほかに、月1回毎月最終水曜日(水だから水曜日)に17:00からスタンディングをしています。というのは50ng/Lをクリアしたらもういい?ではなく、限りなくゼロに近づけないと、という思いから始めました。
請願は、何度も訴えかけて、粘り強く声を上げていきます。 採択されなくても、請願の内容が拡散されて、みんなで声を大きくしていくことが大切です。0歳児の医療費が無料になり、今では高校まで無料になったのも、そこまでの積み重ねがあったからね。
PFASの問題は本当に新しい公害で、日本中が汚染されかねない。ツシマヤマネコもすごい数値が出たという報道がありました。一刻も早く全国調査をして欲しいですね。
市民団体としては2つですが、いっしょにできることはやっていきたいと思っています。
岐阜県民主医療機関連合会(以下民医連)の事務局長・土井さんのお話
民医連は、医療や介護をしていく中で医療制度や介護の改善などに取り組んでいます。特に最近、病気が自己責任で、生活環境、生活習慣がよくないから病気になるといわれがちですが、そもそも病気になる背景、たとえば貧困や、教育の問題、環境が影響し、いろんな病気につながる社会的な背景があります。そこを改善していかなければ、病気はなくならないし、よくならない。そういう立場でいろいろな取り組みをしています。
2年前にPFAS問題が発覚したとき、民医連でも議論をして、なにかやれることをやろうと、ということで関わりを持ってきました。まずは、血液検査。住民の中で、どの程度PFAS汚染が広がっているのかを調べるために、原田先生(当時:京都大学准教授・現:京都府立大学教授)と検査を行ってきました。
来年の4月から、暫定目標値から水質基準値に格上げされ50ng/Lと正式決定されました。しかもこれは成人を基準としています。赤ちゃんや幼児には当然50ng/Lの基準ではまったく当てはまらない。そう考えるとさらに低い基準を考えないと、子どもさんや妊婦さんには非常に大きな影響があると考えています。50ng/Lは決して安全ではない、安心できない数値です。
県や市の担当者は、「日本ではPFASによる明らかな健康被害の報告がない」。それを根拠に行政では血液検査をやらないと決定。だから健康調査もやらない。ただいろんな研究の中で、エコチル調査(環境省では、日本中で10万組の子どもたちとその両親に参加してもらう大規模な疫学調査「子どもの健康と環境に関する全国調査」を2011年より実施。「エコロジー」と「チルドレン」を組み合わせて「エコチル調査」という)が大事です。信州大学のグループが妊婦さんのPFASの血中濃度と、生まれてくる子どもの染色体異常について一定の相関関係が認められたと発表しました。妊婦さんのPFAS血中濃度が2倍という高い場合に、生まれてくる子どもの染色体異常の確率が2倍になっていることが、論文で発表されました。アメリカでも有名な論文です。
もう一つ重要なのは、水道水の汚染から土壌が汚染されるということ。それで作物が汚染され、環境汚染から来る健康被害というアプローチが必要です。またPFASを製造している労働者の健康調査。PFASの影響と思われる間質性肺疾患(肺の中の肺胞が潰れていく病気)。アスベストでも似た症状で、呼吸不全のような病気です。一万人に一人と言われていますが、その数千倍の確率で労働者の中に起きている。これが実証されれば、国内でPFASによる健康被害が証明される。因果関係を明らかにすることで、国が言ってきたことに対して、覆す根拠になります。岐阜県や各務原市は、そういった実際のPFASによる健康被害を立証していくことです。
今こそ、大きな根拠にできるのは、前述した通り9月に発表された信州大学の論文です。京都大学名誉教授の小泉先生は、研究結果から逆算し水道水の基準値は0.25ng/Lだとしました。ただ現実にはそこまで測定できない。高性能な機械を使えば、0.1とか0.2ng/Lまで測れますが、一般的には4ng/Lというのが限界値。それでアメリカは4ng/Lという基準にした。少なくともその水準まで基準値を落とさないとダメだと思うわけです。
民医連として今後、木曽川下流域の岐南町、笠松町の住民の方の血中濃度も調べる必要があると考えています。しかし検査費が一人12,000円もかかるので、苦肉の策ではありますが、募金を集めたり…そんなことも含め考え中です。あと、PFASの健康被害は、公害というか環境という側面もあるので、大阪のダイキンのことも含めて、労災、労働災害の可能性も出てきていますね。
個人的に気になっているのは、スキーとかスノーボードののワックス。あれにもかなり含まれているんです。個人が自分の板にワックスをかけたりするのはそんな大した暴露ではないと思うんですが、スポーツ店で何十本も請け負ってコーティングを落としてまたワックスをかけると、その作業中、PFAS暴露しているんじゃないかって、疑いを持っています。そういう方に協力してもらい、血中濃度を調べてデータとして積み上げていきたいと思っています。
水質基準の根拠をなぜ替えた
新たな水質基準をめぐっては、もう一つ解明されていない謎がある。
どれくらいまでなら飲み水に含まれていても健康に影響がないかを決めるに当たり、国は2020年にはEPA(米環境保護丁)の勧告値をもとにしたが、今回は食品安全委員会の耐容一日摂取量によることにした。
その結果、「PFOSとPFOAの合計で50ナノグラム」が維持された。
じつはこの間、EPAは、PFOSとPFOAの合計で「70ナノグラム」から、PFOS、PFOAとも「4ナノグラム」へと大幅に引き下げ、規制を強化している。
その結果、「PFOS、PFOAの合計で50ナノグラム」が維持された。
もしEPAに倣えば、日本も大幅に引き下げ、ゼロに近づけなければならなくなる。そうなれば、全国各地の浄水場で目標値を超えるのは明らかで、『汚染列島』と呼ばれる事態も予想される。産業界も含めて、汚染除去のための膨大なコスト負担も見込まれる。
そうした事態を避けるためにゴールポストを動かしたのか。経緯について、環境省は公式な説明をしていない。
諸永裕司(もろながゆうじ)
1993年に朝日新聞入社。週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し独立。著書に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『沖縄密約 ふたつの嘘』(集英社文庫)『消された水汚染』(平凡社)。共著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯<カップ>』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
諸永裕司のPFASウォッチより