リニア中央新幹線建設工事では今、トンネル掘削により発生した残土のうち、ヒ素やカドミウムなど重金属を土壌汚染対策法で定められた基準値以上含む「有害残土」(要対策土)を恒久的に生活の場に持ち込む計画が進められています。長野県飯田市の「長野県駅(仮称)」建設工事現場東側の天竜川支流・土曽川橋梁の建設工事現場に6月9日、「有害残土」の搬入が始まりました。橋脚の基礎となるケーソンの中詰め材として「活用」するのだといいます。 井澤 宏明・ジャーナリスト
生活の場に「有害残土」
橋脚下に3倍濃度のヒ素

有害残土搬入に抗議する住民
「要対策土持ち込みNO!」。橋梁建設工事現場入り口の国道153号沿いに住民団体「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」のメンバーが並び、プラカードを掲げて抗議の意思を示しました。
JR東海によると、搬入する有害残土のヒ素濃度は基準値の3倍程度。南アルプストンネル長野工区から掘り出され、大鹿村の仮置き場に保管されている約5000立方メートルが対象で、1.5メートル以上の厚さのコンクリートで封じ込めるといいます。
土曽川橋梁工事への有害残土持ち込みは「環境影響評価」(環境アセスメント)や2022年の「環境保全計画」の段階では想定されていなかったのにも関わらず、昨年になって表明されました。それに対し、住民の会は7081筆の署名を集めてJR東海と飯田市、長野県に中止を求めました。この日もメンバーが「『人の住む場所に有害物を持ち込む』という今回の暴挙は、これからもこの地で代々暮らしていく住民にとって、極めて残念な悲しむべきことと言わざるを得ません」という丹羽俊介JR東海社長への「抗議文」を職員に手渡そうとしましたが、受け取りを拒否されました。
住宅地への有害残土持ち込みを巡っては昨年9月27日と11月14日に開かれた長野県の有識者会議「環境影響評価技術委員会」で、厳しい意見が相次ぎました。
「周りには民家がたくさんある。さらに水が流れている場所なので、影響がありませんとは誰も言えないはず。なぜそういうところに要対策土(有害残土)を使うのか、全く理解できない」「もう工事が途中まで進んで、要対策土も発生している段階で、もうしょうがないからという形で計画が変わっていくのは、非常にまずい」「こういうコンクリート構造物は、絶対に安全だと叫ばれていながら、はがれ落ちたりヒビが入ったりということが起きている。もし漏水などが起きてしまったとき、どのように対応するのか。この水を使って田畑をやっている人もいるし飲料水等もあるので、地元にとっては死活問題だ」「非常に新しい土石流堆積物があり、背後の花崗岩の山地から直径数メートル規模の巨礫が土石流によって流されてくる可能性がある。たとえ1.5メートルの厚さの側面の壁があったとしても、ヒビぐらいは入るのではないか」
農業用ため池上流にも
岐阜県中津川市で建設が進む「中部総合車両基地」でも、県内初となる有害残土の恒久置き場が計画されています。こちらは、飯田市に搬入される約80倍にも当たる計約40万立方メートルの有害残土を「車両基地」(約10万立方メートル)とその北側に造成する「置き場」(約30立方メートル)に恒久的に盛り土する計画です。
有害残土にはカドミウム、六価クロム、黄鉄鉱が含まれる可能性があります。「二重遮水シート」で全体を覆い、接合部を溶着することから、「雨水等により流出しない」といいます。すぐ下流には農業用水に使われている「ため池」がありますが、JR東海は雨水などをいったん集水槽に集め、「排水基準を満たしていることを確認したうえで」、ため池に放流する計画です。
岐阜県環境影響評価審査会が2月26日と4月23日に開かれ、「100年程度耐えられる」という二重遮水シートの耐久性や高さ30メートルの盛り土の安全性に疑問の声が上がりました。
地元コシヒカリは食味ランキングで「特A」。農家の男性は「説明会のたび絶対反対と申し上げてきたが聞き入れてくれない。ため池が汚染されたら、その水でコメ作りをやっとるので困る。二重遮水シートは永久的なものではないが、永久にここで農業を続けたいので容認できません」と憤りを隠せません。