vol.227 続・しょうがいをみつめるvol.9

エイブル・アートとは

特別支援教育に長く携わっていると、私たち健常者にはない熱量と特別なスキルをもった描くこと・作ることが好きな子どもたちと出会うことがあります。15年ほど前に勤めていた特別支援学校で担当したAさんは、とあるマスコットキャラクターがものすごく好きで、初めて出会った10歳の頃から高等部を卒業するまで同じマスコットの絵を描き続けていました。毎日10枚近くも描くのですから、その筆運びに一切の迷いはなく、まるで一筆書きかのようにスラスラと描きます。 当初はマスコットを模写をするだけでしたが、次第に身体の動きや構図のバリエーションが増えていき、卒業間際にはバレンタインバージョンのマスコットや歌舞伎風マスコットなど、さまざまなアレンジやを加えたAさんオリジナルのマスコットキャラクター絵を描くようになっていきました。

Aくんとの出会いをきっかけに障害のある人たちが生み出すアートに興味をもった私は、風の芸術村に出会い、ボランティアとして関わるようになっていきました。

 風の芸術村には、描くこと・作ることが好きな子どもや大人が通ってきます。
風の芸術村には、これを描くんだ、作るんだと己の明確なテーマをもって制作に臨む人たちがいます。目指す色を求めて試行錯誤しながら色を混ぜ続ける人たちがいます。自身の求める美のためにひたすらに塗り重ねる人たちがいます。毎回異なる制作のテーマに挑戦して新たな芸術領域を模索する人たちがいます。
制作に向かうベクトルは人それぞれ、てんでバラバラですが、皆一様にひたむきで、真面目。そして、どの作品にも作者の“らしさ”が溢れており、それが彼らの作品の魅力となっています。

そのような作品を『エイブルアート』と呼ぶことがあります。エイブルアートとは、”Able Art(=可能性の芸術)”という意味で、元は1995年に日本で始まった障害者芸術をとらえ直す運動のことを言いましたが、次第に障害者による芸術そのものを指すようになりました。

昨今、障害のある人のアート活動をサポートする福祉施設や、彼らの作品を生かしていわゆる“売れる”商品を作る企業が増えてきました。障害者芸術の素晴らしさを広め、誰もが排除されない社会づくりを目指して始まったエイブルアート(運動)が実を結びつつあります。
私も描くこと・作ることが好きな人たちが、自分の好きを発揮し続けられる社会であることを願っています。