vol.227 食料危機ってホントに来るの?

現在、畜産物のための穀物飼料量が増えすぎて、人間の食べる分の穀物を圧迫する状況になっている。この問題を解決するには、先進国の住民が意識的に消費量を節約するのと、世界中の国が穀物の生産量を増やすしかない!?今回は、高橋五郎『食糧危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものを参考にしました。

畜産物の飼料が人間の穀物を圧迫

畜産物は肉・酪農製品(酪農製品とは、牛乳類をはじめ、バター、チーズ、ヨーグルト、脱脂粉乳(スキムミルク)、れん乳(コンデンスミルク・エバミルク)、調製粉乳(育児用粉ミルク))・卵・油脂を供給する、人間になくてはならない食料です。人口の増加とともに生産量もうなぎ上りに増えてきました。
世界生産量(2019年)は、以下の通り。
・牛肉生産量:7200万トン・豚肉:1億1000万トン・羊肉:1600万トン・鶏肉:1億3000万トン・鶏卵:8900万トン・バター・ギー(ギーとは:発酵無塩バターから水分やタンパク質を取り除いた純粋な油です。 ギーには、共役リノール酸や、中鎖脂肪酸、ブチル酸、ビタミンA,Eなどが含まれており、優れた栄養素を持った万能オイルとして注目されています):1200万トン、牛乳:8億6500万トン。
これら畜産物を生産するために、トウモロコシ・大豆・ソルガム(ソルガムとは、世界五大穀物のひとつとされ、日本では「タカキビ」や「モロコシ」などとも呼ばれています。)コメ・小麦などを原料とする飼料が必要。1単位の畜産物を生産するのに必要な飼料はあらゆる畜産物を平均すると3単位程度です。
100グラムの肉を食べれば、300グラムの飼料穀物を食べたことと同じだという意味。
人口が100億人になる頃の世界の穀物生産量は約36億トン。それなのに、畜産物にその30%の13億トンを与えてしまうと、人間には23億トンしか残らない。さまざまな用途を含めて1人当たり230kgにしかならず、「家畜栄えて人間滅ぶ」となってしまいかねません。
世界人口が80億人!この人口規模で、世界の人々すべてが飢餓から脱出できるのに必要な穀物量は40億トン近くに達します。ところが実際は約31億トンしかありません。
人口増加に比して穀物生産量も増加しないと、人と家畜の穀物の奪い合いのような事態になりかねないのです。
そこでもしどれだけの穀物を人間の食料として取り戻すことができれば、世界人口のどれくらいを飢餓から解放することができるのでしょう?
畜産物を除いた場合、ヒトは計算上穀物を年間250kg食べれば1日当たりで2400kcalを確保できます。小麦・コメ・トウモロコシなどの穀物は平均して1kg当たり3500kcal程度。だから年間にして1人当たり約250kgの穀物を摂ればよいことになります。
このようにして人間の直接の食料に5億トンを取り戻すことができれば、20億人、現在の地球の人口80億人の4人に1人を飢餓あるいは隠れ飢餓から解放することができるでしょう。

飢餓で苦しむ人類を救うには畜産物を減らすしかない?

畜産物1kg当たりのカロリーの最大は豚肉平均3860kcal、最低は牛乳の640kcal、これに牛肉・鶏肉・鶏卵を合わせた平均を2000kcalとすると、畜産物1kgを食べても、必要とする2400kcalの83%程度しか満たすことができない。あと200g多く食べることが必要となる(2000kcal×1.2)。これに対して穀物1kgの平均は3500kcalなので、1日当たり686g食べるだけで十分(3500kcal×0.686)。
畜産物は穀物の57%しかカロリーがない。だから畜産物を食べるほどに地球には飢餓が増える、ともいえるのです。
生産した穀物を人間と家畜とでどう分け合うかを、どちらが飢餓を救う対策として有効なのか選択せざるえない局面なのです。

先進国の人々は穀物の消費を節約すべき

先進国に住む人々は概して食べ過ぎといわれています。先進国に中国を加えた世界人口の23億人が、1人1日100gの穀物(食料・畜産物飼料・加工食品・工業原料などすべての用途)を節約すると、年間8400万トンの節約になりますが、主食がごはんやパンの国が主食の消費を減らす一方で肉食を増やしてしまうと、この計画は破綻するので難しい面はあります。すでに述べたように畜産向け飼料は非常に効率が悪いため、肉を食べるほどに穀物消費量は逆に増えてしまうからです。
ビーフステーキやローストビーフが好きなアメリカ人・イギリス人の1人当たりパンの年間消費量は25kg程度といわれていますが、国によって大きな差があるのも事実。肉を食べる量を減らすとパンの量は増える関係にあるようです。各国の穀物増産
が地球規模での飢餓対策のカギとなります。
だから日本人はごはんの量を増やすこと。欧米人、特にアメリカ人やイギリス人は
パン食が減っているので、肉食を控えてパンを食べること。それで節約が可能になるというわけ。
また、主に先進国の肥満に注目する世界肥満連合(WOF)によると肥満人口は2035年までに40億人にものぼるといわれています。いまの食品ロスも世界で約10億トン、1人1日当たりでは342グラム!こうしたことも各国政府が国民に働きかけて改善できれば、1人1日100グラムの節約は十分に可能なはずでしょう。