vol.179 メディアよもやま…

「8月ジャーナリズム」のフシギ

 旧盆に敗戦記念日が重なる8月、日常から離れてわが身を振り返ったりすることがあります。メディアも日ごろの騒ぎを一瞬やめて、ジャーナリズムの使命感を思い出したかのように、戦争の記録・反省の番組を放送するクセがあります。8月だけジャーナリズムらしくなったりするメディアを「8月ジャーナリズム」と揶揄する向きもあって(笑)。
戦争もの「NHKスペシャル」の8月ラインナップでは、6日『原爆死72年目の真実~』、「“原爆の絵”は語る~ヒロシマ 被爆直後の3日間~」、9日『沖縄と核』、12日『本土空襲~日本はこうして焼き尽くされた~』、14日『証言ドキュメント 忘れられた戦場~樺太・40万人の悲劇~』、15日『全記録 インパール作戦』が並び、教育テレビ「ETVスペシャル」では、5日『告白~満蒙開拓団の女たち~』、12日『原爆と沈黙~長崎浦上地区の受難~』、19日『戦争の中のくらしの記録~名もなき庶民が綴った1763通の手紙~』、BSでは6日「戦後72年の郵便配達」、12日「幻の原爆ドーム ナガサキ 戦後13年目の選択」 、ドラマでは12日の『1942年のプレイボール』と続きました。
さらにラジオや地方局の企画もあったので、NHKの「8月ジャーナリズム」は壮観だったと言えますね。民放はNNNドキュメント(NTV系列)で6日に『4400人が暮らした町~吉川晃司の原点・ヒロシマ平和公園~』、13日『弾除け神社~奉納写真2万枚の思い~』、テレビ朝日「テレメンタリー」の7月30日『爆心地を語る~78人の証言テープ~』が予告されていましたが、他にもあったでしょう。(この原稿の締め切りは7月末なので、かなりの見逃しもあるでしょう。)
秘密保護法や安保法制問題、共謀罪法制化の時には、あまり抵抗しているように見えなかったメディアが、なぜ8月はこんなにも熱心に(?)戦争の記憶や体験を発掘しようとするのでしょう。長く報道現場にいた私にもよくわかりませんが、日本人はどうも季節ごとの行事や風習を大事に守る心性が強いように思います。“お笑いファースト”の視聴者も、故郷で法事や墓参りをするお盆には、先祖の声にも耳を傾けようという殊勝な心持ちになるのでしょうか。カタイ話題では視聴率が取れないと嘆く編成局幹部も、春ごろから“敗戦企画”を促すのですから、不思議なものです。広島局、長崎局では、新しい“原爆モノ”を発掘・提案することが、その局の記者やディレクターの評価に関わりさえするのです。東京本部ももちろんです。ついでに言えば、“赤い羽根募金の12月”になると、日ごろは通りにくい人権問題のハードルが下がるのです。手練れのディレクターたちは、そうした編成心理の機微を突いて、いつもは避けられがちなネタを巧みに会議で通していくウラ技を駆使します。そうした虚々実々の「8月ジャーナリズム」、今年は単なる“企画と視聴の習慣”を越えて、リアルにキナ臭さが漂っていたように感じたのは私だけでしょうか?

 

つだまさお 「てにておラジオ」代表
1943 年金沢市生まれ。1966 年から NHK で、 主として報道番組の制作に従事。1995年から東邦学園短大、 立命館大学などで市民社会のメディアのあり方を教えたり、 全国の市民 メディアを繋ぐ仕事に携わる。2016年から、「みんなの森・ぎふメディアコスモス」で発信する市民による放送局「てにておラジオ」を運営。





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